2015年9月30日水曜日

ポジティブ・フィードバックの迷信




 人類学者のグレゴリー・ベイトソンを意識して、<ネガティブ・フィードバック>と<ポジティブ・フィードバック>のメタファーを考えてみた。もちろん、サイバネティックス的に。


 このメタファーは、自動車競技のラリー。

 それで、このメタファーには前提があって、ドライバーとナビゲーター。他の競争相手、をひとつのシステムとしている。

 また、ラリーの場合、決められたチェックポイント(中間目標)を早くも遅くもなく時間通りに通過する<アベレージラン>と、それをできるだけ早い時間で通過する<スペシャル・ステージ>に分けられる。

 <アベレージラン>は<ネガティブ・フィードバック>のメタファーである。つまり決められた通過時間(中間目標)に偏差が収束するように、ナビゲータが指示を出し、ドライバーによって車がコントロールされる。ここでは、チェックポイントの通過時間が早すぎても、遅すぎても減点となる。また、他車との単純な競争ではなく、各目標に対する正確さを競うことになる。

 もう一つの<スペシャルステージ>は<ポジティブ・フィードバック>のメタファーである。つまり、決められたチェックポイントをできるだけ早く車が通過するようにされるように、他車をぶっちぎって、偏差が拡大するように、ナビゲータが指示を出しドライバーによって車コントロールされる。ここでは、チェックポイントを他車よりもできるだけ早く通過してゴールまで最も早く到達した車が勝ちとなる。但し、こちらはスピードの出しすぎで車が道を外れたり、立木に衝突したりと、システム自体が壊れるリスクをはらんでいる。

 もちろん、このメタファーは日常生活や仕事の場面にも応用することができる。例えば、一般的には、品質管理の仕事のプロセスは偏差が収束するように認識と行動が<ネガティブ・フィードバック>で行われ、営業活動のプロセスは、1円でも多く売れるように認識と行動が<ポジでィブ・フィードバック>で行われる。もちろん、現状の枠組みを超えた品質管理のやり方を模索するためには<ポジティブ・フィードバック>で研究する必要がある。

 また、そもそも論としてそれぞれの<目的>を考えると。

 <ネガティブ・フィードバック>はシステムの現状どおりの<安定>を指向しており、逆に<ポジティブ・フィードバック>はシステムが現状を超えた<変化>を指向している。余談だがなんらかの<イノベーション>は<ポジティブ・フィードバック>によりシステムが現状の枠組みを超えて変化することにより達成される。

 従って、認識を変え、個人や組織が現状の枠組みを超えて変化するためには、<ポジティブ・フィードバック>のプロセスで認識と行動が行われる必要がある。もちろん、ここには戦略<AS-IS><TO-BE>のように現状から理想へのゴール設定と、<TO-BE>に至るまでの道筋が必要で、この戦略が、<ポジティブ・フィードバック>で回されることになる。
 


  • フィードバックの迷信


うんこなコーチングなどのセミナーなどでは、


ネガティブ・フィードバック⇒ 相手に耳の痛いことを言う
ポジティブ・フィードバック⇒ 相手をほめる


 みたいな、とても<社会科学>や<サイバネティックス>とは思えない迷信みたいなことが言われています。が、この程度の知識だと日常生活や仕事の場面ではほとんど役立つことはありません。


 もっと具体的にいうと、部署の営業成績を上げたり、新しい仕事のやり方を身に付けるために、個人や組織の思考(の枠組)や行動を根本的に<変化>させるという目的のためにサイバネティックス的システム論の<ポジティブ・フィードバック>や<ネガティブ・フィードバック>の知見の誤っているコーチングはまったく役に立たないということになってしまいます。


ので、よゐこの皆様は決してこのような俗説を信じていけませんし、このようなことを言うコーチに当たったら運が悪かったと諦めましょう(笑)。


  • フィードバックのそもそも論


それで、今日はこの<フィードバック>について少し書いておきましょう。もちろん、これが<ポジティブ・フィードバック>を褒めること、<ネガティブ・フィードバック>を耳の痛いことを言う、などといったくだらないことを言っている、コーチングやファシリテーションがなぜ効果がないのか?の答えにもなっています(笑)。


さて、もともと<フィードバック>の概念は、MITのノーバート・ウィーナーがサイバネティックスを体系化した時に定義した概念です。


また、これが人類学者のグレゴリー・ベイトソンによって短期療法や家族療法に応用されていったという背景があります。


具体的には、ベイトソンらが心理療法家のミルトン・エリクソンの(暗黙知的な)技法を、サイバネティックスの枠組みを使って<形式知化>されたのが(加州パロアルトの心理療法研究機関であるMRIの)短期療法、家族療法と言えるでしょう。もっと、いうと、家族や組織に対しても介入を変化を志向している場合は、<ポジティブ・フィードバック>で行うことになります。


それで私の場合、コーチングやファシリテーション、はたまたチェンジ・マネジメントにこの理論と技法を応用していることになります。


で、当然、家族療法は家族を一つのシステム(といってもオートポイエーシス的な)として見るわけですが、このシステムでやり取りされる情報のやり取りをフィードバック・メカニズムとして見るところから話が始まります。


  • 現状維持のためのネガティブ・フィードバックと変化のためのポジティブ・フィードバック


それで、このシステムが<安定>の方向で現状維持の状態に戻るように家族機能の中で偏差が修正されているのが、ネガティブ・フィードバック(ループ)[1]


Negative Feedback Loops are ways that families correct a deviation in family functioning so as to return it to a previous state of
homeostasis.


逆にシステムが枠組みを超えて別次元に<変化>する方向の時には、家族機能の偏差が拡大するような方向でポジティブ・フィードバックが使われることになります。


Positive Feedback Loops (Deviation Amplification)arise as a family attempts to add new information into the system. This
can occur as a part of the growthprocess or increasing levels of complexity. Positive feedback loops are assumedto be responsible for the development of problems in families as they attempt solutions that worsen or maintain the problem. For example, if a child
misbehaves, i.e., deviates from the norm (the family problem) because he is jealous of a new sibling and the father responds with harsh or punishing behavior (an attempted solution), it confirms the child’s belief that he is loved less, and his behavior worsens (the deviation is amplified). MRI interventions would be aimed at changing the pattern of
interaction so that the father could help the child calm his behavior and show him that he is not loved less.


もちろん、これは家族というシステムだけではなく、会社組織というところを見ると、会社組織が新しい考え方や振る舞いを身に付けるため、<変化>するにはポジティブ・フィードバックを使う必要があるということになるわけです。つまり、個人にしろ、家族にしろ会社組織にしろ既存の枠組みを超えて変化する(二次的変化 - Second Order Change)を指向する場合は、ポジティブ・フィードバックを使うことになります。


本来の意味でのフィードバックとはどのような意味か?


ネガティブ・フィードバック⇒ 偏差、逸脱を収束させる方向へのフィードバック。目的は<現状維持>


ポジティブ・フィードバック⇒ 偏差、逸脱が拡大する方向へのフィードバック。目的は現状からの変化。<単なる変化 First Order Change ><枠組みを超えた変化 - 変化についての変化 - Second Order Change>


ということになります。


  • コーチング、ファシリテーションの方向性


 ここで結論めいたことを書いておくと、変化を志向する場合は、なんらかのゴールを志向して、そこに至るまでの認識⇔行動のループを<ポジティブ・フィードバック>で行う必要がある。もちろん、ここでの<ポジティブ・フィードバック>とは単なる褒めるのような単純なことではなく、システム論的には偏差、逸脱が拡大する方向で行うことになる。もちろん、枠組みを超えて別次元へ飛躍することを現状システムの破壊と見るか、否かは状況次第。


で、余談ですが、


 <ポジティブ・フィードバック><ネガティブ・フィードバック>について、


個人や組織の行動に<コンプライアンスや内部統制の強化>は、組織の安定を指向した<ネガティブ・フィードバック>として作用し、<MBO- Management by Objectiveやダイバーシティの強化>は、<ポジティブ・フィードバック>として作用することになります。

文献


[1]http://www.mftlicense.com/pdf/sg_chpt4.pdf

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