2016年11月19日土曜日

ミルトン・エリクソンの系譜:エリクソニアン・アプローチ再考(その11)


                                                                                                                             
 弱いのに正攻法でぶつかっていくのはバカ

 強いから何でも力で押さえつけるのはもっとバカ(笑)。

 <ひとりごと>



明らかにすると抵抗が生まれる

  備忘録として書いておく。

  ネットにエリクソニアンのマイケル・ヤプコのドキュメントが落ちていた。タイトルは「What is Ericksonian Hypnosis?」[1]で比較表を含んでいる。さらに、これにちょっと追記して眺めてみた。

項目
古典(権威的)
標準(学術研究)    
エリクソニアン(利用)
個別対応
催眠状態は日常の延長
自然主義的
セラピストのスタンス
権威主義的
権威主義的/許容的
権威主義的/許容的
指示に従わせる
力関係
セラピストが強い
セラピストが強い
対等
指向
コンテンツ
コンテンツ
コンテンツ/プロセス
催眠導入の成功率
一部
かかる人だけが対象
一部
かからない人も統計を取る
基本的に全員
※催眠の定義の変更
抵抗の源泉
自己のみ
自己のみ
対人/自己
(家族療法への応用可)
抵抗への対処
対立もしくは解釈
対立もしくは解釈
利用
(ユーティライゼーション)
催眠の深さを強調
正規の催眠感受性テスト
治療プロセスの構造
直線的
直線的
モザイク
セラピストの洞察の価値
症状の意図の見方
否定的
否定的
肯定的
症状の原因
自己
自己
対人/自己
(家族療法への応用可)
症状に対処/動態に対処
両方/いずれか
症状に対処
両方/いずれか
二次利得の認識
無意識の性質
否定的
(問題の原因)
否定的
(問題の原因)
中立
(問題の原因、解決の資源)
無意識の役割
受動的
受動的
能動的
暗示の有効性を強調
(経験の再構築をより強調)
介入で示唆される因果
直線的
直線的
円環的
パラドクス介入
利用アプローチはなし
計画されたパラドクス
利用アプローチに加えて
パラドクス介入
カウンターパラドクス介入

 10個目は抵抗への対処だ。日常生活や仕事の場面で相手から抵抗を受けるというのは日常茶飯事だ。もちろん、「なんとなく気が進まない」といった自分からの抵抗もある。その意味では、これにどのように対処すればよいのか? ミルトン・エリクソンの技法から学ぶことは多い。

結論から先にいう。エリクソンが抵抗に対処するアプローチは基本的には以下の3つになる。

  • (利用:ユーティライゼーション)抵抗を利用する。
  • (即興:インプロビゼーション)即興性を使う。
  • (間接的:間接的アプローチ)直接表現による抵抗を避ける

 エリクソンのアプローチは抵抗を利用する、使いこなす、あるいは使い倒すというアプローチになる。エリクソン派(エリクソニアン)の用語で言うとユーティライゼーション・アプローチだ。[2] 

 また、エリクソンの技法は必然的に即興的になる。その状況で利用できそうなものを変化や目的達成に向けて即興的に使う。

 さらに、エリクソンの場合は基本は直接的なアプローチを避けた間接的なアプローチを取る。[3] メタファーの使用などがこれにあたる。メタファーを使うのは、帰納法、演繹法に加えて、既存の枠組みの延長にないアブダクション[4][5]を使うためでもある。

 もう少し大枠の話をしておく。一見すると、セラピストから見ても、クライアントから見ても抵抗は単なる現象だ。セラピストはクライアントより抵抗の背景にある大きい構図を見てとって、変化やゴールの達成のために、よりシステム論的に「関係性」に介入する必要がある。

 さて、昨日、エリクソンの技法の戦略性について書いた。これと同じでエリクソンの抵抗への対処もこのモデルで説明すると理解しやすい。[6] もちろん、実際の世界では、答えがあるかどうかも?あるいはあっても一つだけが唯一の解とは限らない。




   

抵抗1:わたし、わたしたちに問題、課題は存在していない。(現状)
抵抗2:あなたには、わたしたちの問題、課題が分かっていない。(現状)
抵抗3:問題の解決方向、方針に同意できない。(理想)
抵抗4:その解決策では望んだ結果を生まない。(理想)
抵抗5:解決策はよいが、思わぬ副作用を生む可能性が高い。(理想)
抵抗6:解決策を実行することが非常に困難である。(方法、プロセス)
抵抗7:変化することに、コトバに言えないほど恐怖を感じる。(方法、プロセス)

 
抵抗1:わたし、わたしたちに問題、課題は存在していない。への対処例。

 この対処について、エリクソニアンのスティーブ・ランクトンはエリクソンが病理に基づかないモデルと使っていると書いている。[7] つまり、心理療法にやってくるクライアントを病人扱いしないということだ。これについて、自分のことをキリストだと訴えているクライアントを病人扱いせず、その世界観を認め、大工作業を手伝わせたというエリクソンの事例があった。これはビジネス上のコンサルタントの提案などでも同じだ。顧客が問題と思っていないこと、あるいは問題と思っていても曖昧にしてやり過ごされていることをうっかり指摘すると「うちにはそんな問題はない」相手にもされないことになる。

抵抗2:あなたには、わたしたちの問題、課題が分かっていない。への対処例。

 この対処は簡単だが実行は難しい。結論からいうと、クライアントの話しているコトバを使うことだ。 エリクソニアンのアーネスト・ロッシのコトバを借りると「クライアントのコトバを使うのもユーティライゼーション」ということになる。[8] そして、クライアントの話に慎重に、注意深く耳を傾けるということだ。 基本的なことは疎かになる。ネットに溢れているスピリチュアルや三文字アルファベットでエリクソンを語っているのも要注意だ。コンサルタントの世界でも勝手な横文字や省略語を使うのではなくクライアントが話しているコトバや概念を使って話をするのと同じだ。これなしにはクライアントの信用を得るのは難しい。余談だが、コトバの外の話になると、相手のジェスチャーやメタファーとしての身体表現を相手の意識に上がらないように真似てみるのもある意味効果的だ。

抵抗3:問題の解決方向、方針に同意できない。への対処例。

 大きな要因はクライアントに解決策を立案してもらわないことから起こる。当たり前だが、自分で納得できないことをヤレと言われると抵抗は大きくなるだろう。少なくとも、クライアントとは「どういった方向で解決したいのか?」のようにベクトルは合わせておく必要があるだろう。もっとも、エリクソンは方向性を明示するために敢えてパラドキシカルなアプローチを取ることがある。つまり、東京から大阪にいくのに新幹線を使わず、成田から地球を1周して関空に降りても方向は同じだ!と示唆するようなアプローチだ。

抵抗4:その解決策では望んだ結果を生まない。への対処例。

 これには2つの要因が考えられる。一つは、望ましい結果が明示されていないということ。もう一つは、その結果を得るための方法に確信が持てないことだ。エリクソニアン流のゴール設定については書いた。[9] 望ましい結果が明示されていないことへの対処は望ましい結果を明示するためにゴール設定を行ってみることだ。また、結果を得るための方法へ確信が持てないのであれば、小さな実験を繰り返してみればよい。方法が機能するかどうか?速く失敗する、小さく失敗する、上手に失敗する。これを目標に実験を繰り返してみることだ。これ自体がエリクソニアンの治療的ダブルバインドにもなっている。[10] もし、方法を見つけることに失敗しても、失敗することに成功します、となる。このようにして望ましい結果を得るための方法に確信が得られるまで続けることだ。

抵抗5:解決策はよいが、思わぬ副作用を生む可能性が高い。対処例。

 これにはよりシステム論的に取り組む必要がある。変化にしても、ゴール達成にしても、変化しないことにより得ている利得、ゴールを達成しないことによって得ている利得を考えておく必要があるからだ。[11] この利得のことを二次利得と言ったりもする。余談だが、仕事上改革や変化に反対している人は、変化や改革自体に反対していることは少なく、今得ている利得が消えることに反対していることがほとんどだ。「解決策は良いが、思わぬ副作用を生む可能性が高い」は「それをやると今得ている利得を手放す必要がある」と翻訳しなければならないのが普通だ。これを考慮に入れていないと失敗することになる。

抵抗6:解決策を実行することが非常に困難である。対処例。

   この答えは2つの方向性がある。一つは出来ていないことに焦点を当てるのではなく、できていることに焦点を当てることだ。例えば、エリクソン派生のソリューション・フォーカスト・アプローチのプラットフォーム・クエスチョン[12]がこれにあたる。何事もそうだが、なんでも一からはじめなければいけないということは実は少ない。目標を達成するために既に出来ていることも多いはずだ。ここを検討してみることだ。もう一つは、人の力やコンピュータや機械の力を借りるということだ。自分一人で出来ることは少ない。しかし、人に頼むことができればこの制限は随分緩和される。必要に応じて、コンピュータや機械の力を借りるのも手だ。

抵抗7:変化することに、コトバに言えないほど恐怖を感じる。への対処例。

 この答えは簡単だ。エリクソンは(情緒的)雰囲気を変えるために催眠をつかってクライアントをトランス状態に導いた。[13] 現状が恐怖に支配されていると現状分析〜理想の未来を考えることは難しい。これは、ある意味、戦略的思考にはよい(情緒的)雰囲気、あるいは適切な心身状態が必要なことの証左でもあるのだろう。適切なトランス状態はメタ認知を促す。つまり、困っていたり、恐怖を感じる自分を観客席側から映画のスクリーンを眺めるように見ることができる。このような視点が得られれば、より大きな枠組から冷静に状況を見たり、あるいは解決策の立案ができるようになる。また、催眠に不思議な力を求めてはならない、これはエリクソン自身が講演で語っていることだ。[14]

 さて、つらつら書いた。現実の世界では答えは一つだとは限らない。また、そもそも答えがあるかどうかも分からない。ただし、やりたい方向、成りたい方法を決めて、周りをよく観察してみる。そうすると不思議と使える資源・資質(リソース)が見つかるというのもエリクソニアン・アプローチの面白いところでもあるように思えてくるから不思議だ(笑)。また、抵抗は何か前に進んでいることの証左でもある。ヨットは風上にも走れる。抵抗を前に進む推進力に変える力は日常生活でも仕事の場面でも役に立つ。

(つづく)

文献
[1]https://www.hypnosisalliance.com/articles/What%20Is%20Ericksonian%20Hypnosis%20-%20Michael%20Yapki%20-%20Bernie%20Zilbergeld%20-%20Gerald%20Edelstein%20-%20Daniel%20Araoz.pdf
[2]http://ori-japan.blogspot.jp/2016/10/blog-post_5.html
[3]http://ori-japan.blogspot.jp/2013/03/blog-post_12.html
[4]https://en.wikipedia.org/wiki/Abductive_reasoning
[5]http://ori-japan.blogspot.jp/2013/11/blog-post_4.html
[6]http://ori-japan.blogspot.jp/2016/07/blog-post_14.html
[7]http://ori-japan.blogspot.jp/2013/03/blog-post_9.html
[8]http://www.kean.edu/~psych/doc/narrative%20solutions.pdf
[9]http://ori-japan.blogspot.jp/2014/05/blog-post_30.html
[10]http://ori-japan.blogspot.jp/2011/11/blog-post_06.html
[11]http://ori-japan.blogspot.jp/2014/05/blog-post_30.html
[12]http://ori-japan.blogspot.jp/2012/10/blog-post_24.html
[13]http://ori-japan.blogspot.jp/2016/07/blog-post_1.html
[14]http://ori-japan.blogspot.jp/2016/09/blog-post_68.html

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