2016年11月12日土曜日

ミルトン・エリクソンの系譜:エリクソニアン・アプローチ再考(その4)


                                                                                                                             
 普段通りに自然にお願いします、

 というアプローチ自体がすでに普段通りじゃない(笑)。

 <ひとりごと>



自然主義アプローチとは何か?

  備忘録として書いておく。

  ネットにエリクソニアンのマイケル・ヤプコのドキュメントが落ちていた。タイトルは「What is Ericksonian Hypnosis?」[1]で比較表を含んでいる。さらに、これにちょっと追記して眺めてみた。

項目
古典(権威的)
標準(学術研究)      
エリクソニアン(利用)
個別対応
催眠状態は日常の延長
自然主義的
セラピストのスタンス
権威主義的
権威主義的/許容的
権威主義的/許容的
指示に従わせる
力関係
セラピストが強い
セラピストが強い
対等
指向
コンテンツ
コンテンツ
コンテンツ/プロセス
催眠導入の成功率
一部
かかる人だけが対象
一部
かからない人も統計を取る
基本的に全員
※催眠の定義の変更
抵抗の源泉
自己のみ
自己のみ
対人/自己
(家族療法への応用可)
抵抗への対処
対立もしくは解釈
対立もしくは解釈
利用
(ユーティライゼーション)
催眠の深さを強調
正規の催眠感受性テスト
治療プロセスの構造
直線的
直線的
モザイク
セラピストの洞察の価値
症状の意図の見方
否定的
否定的
肯定的
症状の原因
自己
自己
対人/自己
(家族療法への応用可)
症状に対処/動態に対処
両方/いずれか
症状に対処
両方/いずれか
二次利得の認識
無意識の性質
否定的
(問題の原因)
否定的
(問題の原因)
中立
(問題の原因、解決の資源)
無意識の役割
受動的
受動的
能動的
暗示の有効性を強調
(経験の再構築をより強調)
介入で示唆される因果
直線的
直線的
円環的
パラドクス介入
利用アプローチはなし
計画されたパラドクス
利用アプローチに加えて
パラドクス介入
カウンターパラドクス介入


3つ目の項目は、ミルトン・エリクソンの自然主義的アプローチだ。もちろん、自然を大事にしようとか、エコ第一とかそういう概念ではない(笑)。

 まず、話の前提として「トランス : Trance」を定義したい。以下にその定義めいた話がある。[2]

When asked to define trance, Erickson is reported to have replied, “whatever I say it is...will distract me from recognizing and utilizing the many possibilities that are” (Gilligan, 1987;p. 39).

トランスの定義を尋ねた時、エリクソンはこう答えたと報告されている「私がいっていることは.... 私が多くの可能性を認識して利用することを邪魔するだろう」

Despite the long history of dedicated scientific research, trance has, in our view, no stable referent. While there are enough significant differences among researchers and theorists to support this assertion (Weitzenhoffer, 2000), our point keeps with Erickson’s: any definition that proposes explanatory closure limits possibilities.

長い間、科学的な研究が行われてきたにもかかわらず、我々の見解では、トランスの定義について誰も決まった見解を持っていない。しかし、トランスを裏付ける充分な研修者毎に異なる主張や理論が存在している。我々の見方はエリクソンに沿っている。つまり、説明に閉じ込められたすべての定義は可能性を制限するということだ。

 
 エリクソンのコトバは深い。「コトバで定義すること自体が、現実の認識や行動の可能性に制限をかけることになることだ」。まるで禅問答だ。だが、はたと腑に落ちる。「お勉強」ばかりしてはいけないことにも気づく。[3] 社会人になると、「仕事が出来る」は褒め言葉だが「勉強ができる」は大抵バカの婉曲表現であるのと同じだ(笑)。

 身近な例だとネットのグルメ情報などもそうだ。実際に食べた料理をどんなに素晴らしいコトバで表現しても、それは食べた経験とは違う。エリクソンも実際に経験したトランスとコトバで定義されたトランスの間には大きな違いがあることが分かっていたのだろう。

 コトバは物事を抽象化して考えることを促進する。記号を操作することで従来考えの及ばなかったことを考えつくこともある。つまり、イノベーションの源泉にもなる、しかし、時には経験との断絶を引き起こし、逆に行動や思考の可能性を制限することにもなる。[4]  一般意味論の創始者アルフレッド・コージブスキーは「地図は領土ではない」と表現した。本来の意味は、コトバ(地図)は実体(領土)とは違うということだ。禅では「月を指す指ではなく月を見よ」ということになるだろう。

 特に何かを定義する時、コトバを使いどうしても小さく小さく範囲を絞って定義してしまう。「月ではなく月を指す指を見ている状態だ」これは同時に可能性を制限することでもある。なかなか深い学びだ。

 これを踏まえたうえでのミルトン・エリクソンの自然主義的なアプローチについてだ。エリクソン自身による「Naturalistic Techniques of Hypnosis」[5]を読んでみる。

The naturalistic approach to the problem of the induction of hypnotic trances,as opposed to formalized ritualistic procedures of trance induction, merits much more investigation,experimentation and study than have been  accorded  it to date.

自然主義的アプローチは、催眠のトランス状態へ誘導する時の問題に応えるものだ。一方、これまでの催眠導入は、正式な儀式的手順を踏んで行われてきた。自然主義的アプローチは、今日まで行われてきた従来の催眠導入よりトランス誘導と対比して、催眠によるトランスへの誘導より調査、実験および研究に値する。

By naturalistic approach is meant the acceptance of the situation encountered and  the utilization of it,without endeavoring to restructure it psychologically.

自然主義的アプローチを採ることは、この技法の心理学的な再構築を探求をするのではなく、偶発的状況を受け入れ、それを利用することを意味する。

In so  doing,  the presenting behavior of  the patient becomes a definite aid and an actual part in inducing a trance,rather than a possible hindrance.

そうすることで、患者の振る舞いの表明は、妨げの可能性というより、トランス誘導の実体の一部であり明確な助けとなる。

For lack  of a more definite terminology,the method may be termed a naturalistic approach,  in which an aspect  of the principle of synergism is utilized.

用語が明確に定義されていないが、相乗効果の原理を利用しているという視点から、この方法は自然主義的アプローと言えるだろう。

 
 自然というのは非常に難しいような気もする。それは、ちょっと意識した途端に自然ではなくなるからだ。つまり不自然になる。逆に自然というのは、目の前にあるもの、あるこをちょっと面白く使ってやろうじゃないか、というこういうアプローチになるのだろう。

 繰り返すが、自然は、意識した途端に不自然になる。だから不自然にならないよう基本は間接的に示唆するアプローチになる。逆にわざと不自然にやってくださいとなると、これはパラドキシカルなアプローチとなる。不自然を意識することで、自然にやっていることが見つかる。で、どちらもあり。結局、あくまでも自然に何かをしよう、というのが本来の自然主義的なアプローチのように思えてくる。

  エリクソンのいうトランス状態も同じだ。大抵、催眠、催眠と強調している連中がへっぽこなのは言うまでもない。エリクソンはまるで落語の「時そば」のように間接的に催眠誘導する。もちろん、相手からごまかしてお金を巻き上げようというのではない(笑)。本来気づいていない自分の可能性に気づいたり、利用できるのに利用していない資源・資質(リソース)に気づいてもらうために自然にトランスを利用する。


(つづく)

文献
[1]https://www.hypnosisalliance.com/articles/What%20Is%20Ericksonian%20Hypnosis%20-%20Michael%20Yapki%20-%20Bernie%20Zilbergeld%20-%20Gerald%20Edelstein%20-%20Daniel%20Araoz.pdf
[2]http://empresa.rediris.es/pub/bscw.cgi/d4453320/Teleska-Continuum_hypnotherapeutic_interactions.pdf
[3]http://ori-japan.blogspot.jp/2016/11/blog-post_8.html
[4]http://ori-japan.blogspot.jp/2011/09/blog-post.html
[5]http://bscw.rediris.es/pub/bscw.cgi/d4420075/Erickson-Naturalistic_techniques_hypnosis.pdf

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