2016年11月20日日曜日

ミルトン・エリクソンの系譜:エリクソニアン・アプローチ再考(その12)


                                                                                                                             
 ミルトン・エリクソンのトランスの深さとかけて、カレーの辛さととく。

 そのこころは?

 食べる人によって美味しいと思う辛さが違います(笑)。

 <ひとりごと>



催眠の深さはひとり一人が違ってよいし、使わなくても変化は起こる

備忘録として書いておく。

  ネットにエリクソニアンのマイケル・ヤプコのドキュメントが落ちていた。タイトルは「What is Ericksonian Hypnosis?」[1]で比較表を含んでいる。さらに、これにちょっと追記して眺めてみた。  

項目
古典(権威的)
標準(学術研究)    
エリクソニアン(利用)
個別対応
催眠状態は日常の延長
自然主義的
セラピストのスタンス
権威主義的
権威主義的/許容的
権威主義的/許容的
指示に従わせる
力関係
セラピストが強い
セラピストが強い
対等
指向
コンテンツ
コンテンツ
コンテンツ/プロセス
催眠導入の成功率
一部
かかる人だけが対象
一部
かからない人も統計を取る
基本的に全員
※催眠の定義の変更
抵抗の源泉
自己のみ
自己のみ
対人/自己
(家族療法への応用可)
抵抗への対処
対立もしくは解釈
対立もしくは解釈
利用
(ユーティライゼーション)
催眠の深さを強調
正規の催眠感受性テスト
治療プロセスの構造
直線的
直線的
モザイク
セラピストの洞察の価値
症状の意図の見方
否定的
否定的
肯定的
症状の原因
自己
自己
対人/自己
(家族療法への応用可)
症状に対処/動態に対処
両方/いずれか
症状に対処
両方/いずれか
二次利得の認識
無意識の性質
否定的
(問題の原因)
否定的
(問題の原因)
中立
(問題の原因、解決の資源)
無意識の役割
受動的
受動的
能動的
暗示の有効性を強調
(経験の再構築をより強調)
介入で示唆される因果
直線的
直線的
円環的
パラドクス介入
利用アプローチはなし
計画されたパラドクス
利用アプローチに加えて
パラドクス介入
カウンターパラドクス介入

   11番目はトランス状態の深さだ。心理療法家のミルトン・エリクソンは、クライアントの情緒的雰囲気を変えるためにトランス状態に導いた。[2]

 実は、ここで誤解が生じているように思われる。エリクソンは催眠の深さを強調していない。つまり、トランスは深ければ深いほどよい、などといった単純な考え方をしなかった。

 逆にエリクソンは、クライアント毎、クライアントの問題毎にそれを解決に導くために最適な深さのトランスがある、と考えた。これはカレーの辛さと同じだ。甘口、中辛、大辛、激辛のような選択肢があり、クライアントが美味しいと思う辛さがあるという具合だ。だからエリクソンはその時に応じた深さのトランス状態へ導いた。

 個人的な愛読書でもある「Healing in Hypnosis」[3]からの引用がネットに落ちてたが、エリクソン自身が語った以下のようなコトバがある。


Depth of trance:  "You want to go into trance; you want to achieve certain results.  You don't know whether it's a light trance, a deep trance, or a medium trance that you want , and neither do I.  I think you and I ought to let your unconscious mind us whatever amount of light trance, whatever amount of medium trance, and whatever about of deep trance that your unconscious naturally feels will be most helpful."

トランスの深さ:「あなたはトランスに入りたい:あなたは何がしかの結果を達成したい。あなたは、あなたが望んでいるのが、浅いトランスなのか、深いトランスなのか、あるいは中ぐらいのトランスなのか分かっていません。私にも分かりません。あなたと私の無意識が自然に感じるものがどの程度の浅いトランスなのか、どの程度の中くらいトランスなのか、どの程度の深いトランスなのか、どんなものであれ、あなたの無意識が最も有効だと自然に感じるような程度にするべきだと私は思います。」

 
 エリクソンのコトバは逐一深い。ベイトソンたちと一緒に研究していたスタンフォード・メディカル・スクールで教えていたいいおっさん達がエリクソンに人生をかけてハマるのも理解できる(笑)。

  まず、これ自体がいくつかの選択肢を提示した許容的なアプローチとなっている。また、Not Knowing つまり無知の知[4]を使ったアプローチでもあり、最適なトランスの深さはあなたにも私にも(意識的に)分かっていないが、あなたと私の無意識のサイバネティクス的な相互作用の中で自然と決まってくるでしょう、という示唆になっている。また、これ自体が意識-無意識の治療的ダブルバインド[5]のパターンでもある。繰り返すが、この短い説明の間に、
  • 許容的アプローチ
  • 無知の知アプローチ(Not Knowing)
  • 治療的ダブルバインド
  • (+間接アプローチ)
が示唆されている。暗に示唆されていることは+間接アプローチとなる。


さらに続ける、


 TRANCE DEEPENING AS FUNCTION OF PATIENT NEED:  Regarding this matter of deepening hypnosis, I have found that often too much effort is put into deepening a hypnotic trance.  My feeling is that patients should go no deeper into trance than they need to go.

患者に必要な機能としてのトランスの深化:深い催眠をかけることの問題として、私(エリクソン)は深いトランス状態に導くことにあまりにも多くの努力が払われていることを発見しました。私の感覚では、患者は彼らが必要とする以上に深いトランスに誘導する必要はないのです。

 Therefore, I tell my patients the following: "Now, some patients need to go very deeply into hypnosis and some patients can accomplish everything they need to accomplish while they are a very light stage of hypnosis. Neither you nor I know what degree of hypnosis is requisite for you, but I think you are willing to develop that degree of hypnosis that is requisite for you to give your full attention to the therapeutic accomplishments that you need.  I think that you are willing to develop that degree of hypnosis that is requisite for you to accomplish the therapeutic achievements that you desire."

したがって、私は患者に以下のように伝えます:「さて、ある患者は催眠に深く入っていく必要があります、またある患者は催眠の非常に浅い段階で彼らが達成しなければならないことをすべて達成することができます。あなたもわたしもあなたにどの程度の(深さ)の催眠が必要なのかは分かりません、しかし私はあなたが必要とする治療的に達成するべきことにすべての注意を向けることであなたに必要とされる深さの催眠を開発したいと考えています。私は、あなたの望む治療的に達成すべきことを達成するために必要とされる深さの催眠をあなたが開発したいと望んでいると考えています。」

  I state it in such a way that patients are free to be in a light, a medium trance, or a deep trance.  I have not made an issue out of going deeper; I have not made an issue out of staying in a light trance; I have not made an issue out of staying in a medium trance.

 私は、患者が浅いのでも、中くらいのでも、深いのでもトランスにいても自由であることを述べます。私には深いトランスに誘導する問題はありません。私には浅いトランスにとどまり続ける問題もありません。私には中くらいのトランスにとどまりつつける問題もありません。

I have simply made an issue out of going as deeply as they need to go.  Why should patients go any deeper than they need to go?  If you are afraid of deep water, why not swim in water that is shallow?; after all, you can swim in water that is thirty feet deep!  Why not let your patients have that same freedom?

 私は、クライアントを深く深く誘導することから解放することを課題としました。なぜ、クライアントが必要とする以上に深く催眠誘導する必要があるのでしょう。もし、深い水深で泳ぐのが怖いのなら、なぜ浅い水深で泳がないのでしょうか?結局、あなたは13フィートの水深で泳ぐことはできます。なぜクライアントにも同じ自由を与えないのでしょうか?


 これから分かるのは、セラピストの勝手な思い込みで深いトランスに導いてやる、と思うのは大きなお世話だということだ。あくまでもトランスの深さは状況とクライアントとセラピストの相互作用で都度決まるということになる。

 また、余談として2つ書いておく。

 一つは、エリクソニアンのスティーブン・ギリガンの「The Legacy of Milton Erickson」[6]に書いてある話。ギリガンはトランス状態が二項対立の認識の中で起こることを書いている。[7]禅問答的な話でもある。

 エリクソンは浅いトランス、中くらいののトランス、深いトランスのどれがよいか?(Either or)を示しているが、ギリガンは浅いトランスと深いトランスに同時に入ってください(Both and )のトランス誘導の例をダブル・インダクションの例で示している。ダブル・インダクションとは2人のセラピストがクライアントの右側と左側から異なる誘導を行う混乱技法に分類される技法だ。

 もうひとつは、(Neither nor)の例、ベイトソンの同僚でスタンフォード・メディカル・スクールでも教えていたMRIのポール・ウオツラウィックらは明示的な催眠を使わなくても適切な状況設定とリフレーミングがあれば同じ効果が得られることを明らかにした。[8] ここから、催眠を使わないソリューション・フォーカスト・アプローチやMRIやミラノ派家族療法への応用へと広がっていく。

 何れにしても、催眠の深さと変化の大きさには相関はないということだ。

(つづく)

文献
[1]https://www.hypnosisalliance.com/articles/What%20Is%20Ericksonian%20Hypnosis%20-%20Michael%20Yapki%20-%20Bernie%20Zilbergeld%20-%20Gerald%20Edelstein%20-%20Daniel%20Araoz.pdf
[2]http://ori-japan.blogspot.jp/2016/07/blog-post_1.html
[3]https://www.hypnosisalliance.com/articles/Healing%20In%20Hypnosis.pdf
[4]http://ori-japan.blogspot.jp/2016/08/blog-post_15.html
[5]http://ori-japan.blogspot.jp/2016/10/blog-post_4.html
[6]https://books.google.co.jp/books?id=10ZwjOtcAuwC&pg=PA195
[7]http://ori-japan.blogspot.jp/2012/04/blog-post.html
[8]http://ori-japan.blogspot.jp/2012/01/blog-post_23.html

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