2016年11月25日金曜日

ミルトン・エリクソンの系譜:エリクソニアン・アプローチ再考(その17)


                                                                                                                             
 日常生活でも仕事の場面でも、

 過去に遡及して原因分析をして解決策を探っても意味のないことも多い。

 人間関係はトヨタ式なぜなぜ✕5回を聞いても、原則、解決しない(笑)。

 <ひとりごと>



たかが関係されど関係

備忘録として書いておく。

  ネットにエリクソニアンのマイケル・ヤプコのドキュメントが落ちていた。タイトルは「What is Ericksonian Hypnosis?」[1]で比較表を含んでいる。さらに、これにちょっと追記して眺めてみた。  

項目
古典(権威的)
標準(学術研究)    
エリクソニアン(利用)
個別対応
催眠状態は日常の延長
自然主義的
セラピストのスタンス
権威主義的
権威主義的/許容的
権威主義的/許容的
指示に従わせる
力関係
セラピストが強い
セラピストが強い
対等
指向
コンテンツ
コンテンツ
コンテンツ/プロセス
催眠導入の成功率
一部
かかる人だけが対象
一部
かからない人も統計を取る
基本的に全員
※催眠の定義の変更
抵抗の源泉
自己のみ
自己のみ
対人/自己
(家族療法への応用可)
抵抗への対処
対立もしくは解釈
対立もしくは解釈
利用
(ユーティライゼーション)
催眠の深さを強調
正規の非暗示性テスト
治療プロセスの構造
直線的
直線的
モザイク
セラピストの洞察の価値
症状の意図の見方
否定的
否定的
肯定的
症状の原因
自己
自己
対人/自己
(家族療法への応用可)
症状に対処/動態に対処
両方/いずれか
症状に対処
両方/いずれか
二次利得の認識
無意識の性質
否定的
(問題の原因)
否定的
(問題の原因)
中立
(問題の原因、解決の資源)
無意識の役割
受動的
受動的
能動的
暗示の有効性を強調
(経験の再構築をより強調)
介入で示唆される因果
直線的
直線的
円環的
パラドクス介入
利用アプローチはなし
計画されたパラドクス
利用アプローチに加えて
パラドクス介入
カウンターパラドクス介入

  16番めは症状の原因だ。このあたりは、Wikipeida の Family Therapy[2]の項目に詳しい。当然、誤解してならないことがある。エリクソニアン・アプローチやMRIのブリーフセラピーでは、症状は、今ココでの関係(外側の人間関係、内側の心理的葛藤、その相互作用)で起きており、過去には遡及して原因追求をしても解決にはつながらない、と考えていたことだ。Wikipeidaを読んでみる。


The movement received an important boost starting in the early 1950s through the work of anthropologist Gregory Bateson and colleagues – Jay Haley, Donald D. Jackson, John Weakland, William Fry, and later, Virginia Satir, Paul Watzlawick and others – at Palo Alto in the United States, who introduced ideas from cybernetics and general systems theory into social psychology and psychotherapy, focusing in particular on the role of communication (see Bateson Project). 

このムーブメントは1950年代初期の人類学者のグレゴリー・ベイトソンとその同僚 ―― ジェイ・ヘイリー、ドナルド・D・ジャクソン(ドン・ジャクソン)、ジョン・ウィークランド、ウィリアム・フライ(ビル・フライ)、その後から参加するヴァージニア・サティア、ポール・ウオツラィックや他 ―― によって米国カリフォルニア州パロアルトによって起こった、彼らはサイバネティクスや一般システム論を社会心理学や心理療法の世界に持ち込み、コミュニケーションの特別な役割に焦点を当てた(ベイトソン・プロジェクト参照)。

 
 このあたりは、毎度お馴染みのお話だ。[3] パロアルトはシリコンバレーの中核都市のひとつだ。何も、IT技術ばかりが創発するわけではない。実験的な試みを恐れない、そして死屍累々の失敗の中からパラダイム・シフトの芽が出る地域なのは今も変わっていない。今だと人工知能とiPSを応用したバイオだろう。MRIの設立は1959年だから、そんな地域での昔話だ。

 さて、注意しなければいけないのはミルトン・エリクソンは自身の技法を体系化しなかった。体系化を試みたのはベイトソンたちのグループだということだ。つまり、エリクソンは何時の時代も暗黙知のまま。その時代の研究者たちが最新のシステム理論を使って形式知化してくれる構図がここにある。

 それで、ベイトソン達は(第二次)サイバネティクスを持ち込んでミルトン・エリクソンの技法を観察、研究した。そして分かったのが以下だということだ。特に赤い字で強調したところは重要だ。



This approach eschewed the traditional focus on individual psychology and historical factors – that involve so-called linear causation and content – and emphasized instead feedback and homeostatic mechanisms and “rules” in here-and-now interactions – so-called circular causation and process – that were thought to maintain or exacerbate problems, whatever the original cause(s). (See also systems psychology and systemic therapy.) 

このアプローチは、伝統的に個人の心理や個人の履歴に焦点を当てるやり方 ―― いわゆる、直線的因果関係や内容(コンテンツ)―― を避け、そのかわりにフィードバックや恒常性のメカニズムあるいは「今ココ」でのコミュニケーションのやり取り ――いわゆる、円環的因果関係およびプロセス ――  を強調し、そのきっかけとなった元々の原因が何であれ、(現状の円環的因果関係やプロセスが)問題を維持したり、悪化させたりすると考ていた。(システム心理学、システミック心理療法参照)。



 このあたりはパラダイムの転換が必要なので理解が難しいところがある。それは、考え方の枠組みをデカルトの二元論的世界観からベイトソンの非二元論的世界観に切り替える必要があるということだ。[4]

 ある意味、現行の教育制度だと、勉強をするのはイコール、デカルトの世界観を強化するようなカリキュラムになっている。だから、勉強ばかりしているとバカになるというのはそういうことだろう(笑)。

 これについて、スタンフォードの大学院を出たばかりのヘイリーがベイトソンのチームに加わって研究を始めた時、「ベイトソンを含む研究者のオッサンたちがいった何を言っているのか当初まったく理解できなかった」という主旨のことを書いていた記憶がある。つまり、ベイトソンの世界観はデカルトの世界観で見ていてもまったく理解できないということだ。そして、ベイトソンたちは(第二次)サイバネティクスを持ち込みエリクソンの技法を主に、(対人間および自己間)のコミュニケーションのやりとり、それと戦略に還元して研究を始めた。もちろん、今の我々なら過去を振り返ってカンニングしてるような格好になっているのでヘイリーに理解できなかったことは容易に理解可能だ。

 さて、ベイトソンたちはフロイトのように問題が過去にあるとは考えなかった。これとは違って、今ココの関係性あるいは関係性のパターンにあると考えた。そしてベイトソンたちはマジックミラーを駆使してメタの視点も活用しつつ関係性を観察し介入する方法を考えた。[5]

    もちろん、ベイトソンたちは問題の関係性を特定し、詰将棋を指すように緻密に特定して関係を崩すためのパラドクス介入を行う。これはエリクソンも同じだ。そのために時に突拍子もない行動指示を行う。だが、その裏には緻密な見立てがある。

 だから、曲解されたソリューション・フォーカスト・アプローチのように現在の問題はまったく無視して解決策だけ考えればうまくいく、とは主張していないことには注意が必要だ。そんな大雑把な話だと誰も苦労することはないのだろうから(笑)。ましてやエリクソンを曲解した、深い催眠状態に導けば問題は解決する、とか、過去に退行して問題の原因を解決するなどということは、そもそもエリクソニアン・アプローチとしてはあり得ない話となる。

話をつづけよう。
 

This group was also influenced significantly by the work of US psychiatrist, hypnotherapist, and brief therapist, Milton H. Erickson - especia
lly his innovative use of strategies for change, such as paradoxical directives (see also Reverse psychology). 

The members of the Bateson Project (like the founders of a number of other schools of family therapy, including Carl Whitaker, Murray Bowen, and Ivan Böszörményi-Nagy) had a particular interest in the possible psychosocial causes and treatment of schizophrenia, especially in terms of the putative "meaning" and "function" of signs and symptoms within the family system. 

このグループ(ベイトソン・グループ)は、米国の精神科医で、催眠療法士で、ブリーフセラピストであるミルトン・H・エリクソンの著しい影響 ―― 特に、変化を導く戦略の革新的な使い方、例えば、パラドクス的な指示 ―― を受けている 。(リバース心理学参照)。

ベイトソン・プロジェクトのメンバー(カール・ウィタカー、マリー・ボウエン、イワン・ボスゾルメニ=ナギィを含む数多くの家族療法の創設者など)は、特に統合失調症の社会心理的な要因の可能性とその治療方法、特に家族システム内の徴候や症状の「意味」や「機能(役割)」の推定に興味を持っていた。


 ベイトソンたちが賢かったのは、エリクソンが関係性を変えるためにパラドクス介入を行っていた、あるいはパラドクスを含む関係性にカウンター・パラドクスをぶつけて介入を行っていると見ぬいたところだろう。逆に言うと、「ミルトン・エリクソンの本質は催眠です」と言っているようでは「私は何も分かっていないバカです」と表明しているのに等しいことになる(笑)。当然、普通の人からすると、催眠の気持ち悪さからくる抵抗が生まれる。 当然、この抵抗へも対処につかう労力はバカにならない。[6] さらに言うと、この抵抗を回避するためにエリクソンが催眠についても許容的アプローチを取る話は書いた。[7]

 もちろん、ベイトソンたちの研究から明示的な催眠を使わない、ソリューション・フォーカスト・アプローチや各家族療法への応用が開かれたということになる。

 さらに続ける。



The research of psychiatrists and psychoanalysts Lyman Wynne and Theodore Lidz on communication deviance and roles (e.g., pseudo-mutuality, pseudo-hostility, schism and skew) in families of schizophrenics also became influential with systems-communications-oriented theorists and therapists.

A related theme, applying to dysfunction and psychopathology more generally, was that of the "identified patient" or "presenting problem" as a manifestation of or surrogate for the family's, or even society's, problems. (See also double bind; family nexus.)

精神科医精神分析家のリーマン・ウェインとテオドール・リッツの統合失調症の家族におけるコミュニケーションの逸脱と役割(例:擬似相互関係、擬似敵対性、分裂およびスキュー)は、システムーコミュニケーション指向の理論とその心理療法家に影響を及ぼした。

関連するテーマとして、より一般的に機能不全や精神病理学に適用される「IP(特定された患者)[8] [9]や「表に現れた問題」は、家族もしくは社会の問題の現れ、もしくは代理として現れるものである。(ダブルバインド参照)


ベイトソンのように見立て、エリクソンのように介入せよ。というのは、物事を理解するために生命を持ったシステムというメタファーを持ち込み、物事をシステムとして見立て、その関係性に介入せよ。ということが分かってくる。

(つづく)

文献
[1]https://www.hypnosisalliance.com/articles/What%20Is%20Ericksonian%20Hypnosis%20-%20Michael%20Yapki%20-%20Bernie%20Zilbergeld%20-%20Gerald%20Edelstein%20-%20Daniel%20Araoz.pdf
[2]https://en.wikipedia.org/wiki/Family_therapy
[3]http://ori-japan.blogspot.jp/2015/12/2015.html
[4]http://ori-japan.blogspot.jp/2016/11/blog-post_8.html
[5]http://ori-japan.blogspot.jp/2016/08/blog-post_11.html
[6]http://ori-japan.blogspot.jp/2016/11/blog-post_18.html
[7]http://ori-japan.blogspot.jp/2016/11/blog-post_20.html
[8]http://ori-japan.blogspot.jp/2015/11/ip.html
[9]http://ori-japan.blogspot.jp/2016/07/blog-post_25.html

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