2016年11月27日日曜日

ミルトン・エリクソンの系譜:エリクソニアン・アプローチ再考(その19)


                                                                                                                             
 他人から見て、不都合なことは色々ある。

 だが、本人がそこから利益を得ていると絶対に手放そうとしない。

 また、それを無意識にやっているので一層厄介なのだ(笑)。

 <ひとりごと>



変化のためには、二次利得を考慮する

  備忘録として書いておく。

  ネットにエリクソニアンのマイケル・ヤプコのドキュメントが落ちていた。タイトルは「What is Ericksonian Hypnosis?」[1]で比較表を含んでいる。さらに、これにちょっと追記して眺めてみた。  

項目
古典(権威的)
標準(学術研究)    
エリクソニアン(利用)
個別対応
催眠状態は日常の延長
自然主義的
セラピストのスタンス
権威主義的
権威主義的/許容的
権威主義的/許容的
指示に従わせる
力関係
セラピストが強い
セラピストが強い
対等
指向
コンテンツ
コンテンツ
コンテンツ/プロセス
催眠導入の成功率
一部
かかる人だけが対象
一部
かからない人も統計を取る
基本的に全員
※催眠の定義の変更
抵抗の源泉
自己のみ
自己のみ
対人/自己
(家族療法への応用可)
抵抗への対処
対立もしくは解釈
対立もしくは解釈
利用
(ユーティライゼーション)
催眠の深さを強調
正規の非暗示性テスト
治療プロセスの構造
直線的
直線的
モザイク
セラピストの洞察の価値
症状の意図の見方
否定的
否定的
肯定的
症状の原因
自己
自己
対人/自己
(家族療法への応用可)
症状に対処/動態に対処
両方/いずれか
症状に対処
両方/いずれか
二次利得の認識
無意識の性質
否定的
(問題の原因)
否定的
(問題の原因)
中立
(問題の原因、解決の資源)
無意識の役割
受動的
受動的
能動的
暗示の有効性を強調
(経験の再構築をより強調)
介入で示唆される因果
直線的
直線的
円環的
パラドクス介入
利用アプローチはなし
計画されたパラドクス
利用アプローチに加えて
パラドクス介入
カウンターパラドクス介入

 18番目は二次利得(Secondary Gain)を考慮するかどうかという話だ。この話は『ミルトン・エリクソン書簡集』[2]の中でエリクソンとウェンデル・レイ[3]の書簡の中に記載されていた。二次利得とは病状などからもクライアントが得ている利得があるとする考え方だ。例えば、クライアントが病気であり続けることで家族が優しくしてくれる、とか、そういうヤツだ。だから二次利得を考慮せず病状だけを治そうとすると、思わぬ抵抗を受ける、という具合だ。

 企業内における喫煙の二次利得を考えてみると面白い。私は喫煙者ではないが、喫煙の二次利得としては、リラックスできるといったものから、喫煙所での情報交換が案外有益とか、喫煙所での会話が組織の横串を通しているとか、個々人から組織のレベルまで、喫煙そのもの以外の利益が多くあるだろう。だから、単にタバコを禁止といってもそこから得ている二次利得が失われないように制度の変更を行わないと、そこには変化に対する抵抗が生まれたり、別の意味での副作用が生まれる、という具合だ。その意味、システム論[4]で考え、システム論で実行しないと思わぬしっぺ返しをくらうことになる。

 さて、以下のような記述がある。[5] なかなか本質を突いていて妙だ。


The strategic model of psychotherapy assumes that there usually a good deal of secondary gain in the existing state surrounding the presenting problem. If this were not the case, the client , having own best interests at heart , would have been able to make the needed changes himself already without having to go to a therapist.

精神療法の戦略モデルは、提示された問題を取り巻く既存の状態において、通常はかなりの二次利得があると仮定する。 これが当てはまらない場合、クライアントは心にもっとも関心のあるものを持っていて、セラピストに行かなくても自分自身で必要な変化を自分で起こすことが可能だった。

 
  一つは、戦略モデルを取るので、二次的利益を考慮するのか? それとも二次利得を考慮するので戦略モデルになるのか?はベイトソンの円環的因果関係の世界観[6] でしかわからない(笑)。もう一つは、自分で気づいているかどうかは別にして、何かを考え実行することについて何の葛藤も感じていない人は、単にそれをやればいいよねぇ、というだけの話になる、ということだ(笑)。もっとも、やる気だけあってシステム思考で実行できないバカだとそのうち行き詰まることになるのだろう・・・・ドラえもんが出した凄い道具に凄い副作用があることがオチであるように・・・(笑)。

 さて、エリクソンのやり方はかなり戦略的だ。[7]  もちろん、エリクソン自身が「私のやり方は戦略的です」と語ったわけではない。MRIの研究者、特にヘイリーが明らかにしたことだ。戦略とは、現状-理想を明示し、理想への道筋を示すことだ。もちろん、外向きのビジョン、内向きのミッションが上位概念としてあり、粒度的には、戦略→戦術→オペレーションとなる。元々は軍事用語だが現在は企業経営の概念としてお馴染みだ。

 人や組織の認識や行動は、通常はシステム論的(サイバネティクス的)なネガティブ・フィードバック・ループで維持されている、この「現状維持」に対して、認識の隙間をつくり、最上は現状の枠組みの認識の延長にない理想のゴールをポジティブ・フィードバック・ループで思い描き、実際にそのコンテクストで行動することでそれを得ようとしているのが戦略的な取り組みとなる。そして、ここには当然、変化に対する抵抗が生まれるということになる。一見不都合なことから得ている二次利得を奪うことについての抵抗は案外やっかいだ。

 エリクソンとは直接関係ないがこの二次利得を簡単に調べるフレームワークが TOC(Theory of Constraints)に用意されている。 Youtubeに以下の映像がある。




➕ 得る利益
➖ 被る不利益
変化する
メタファー:財宝
メタファー:松葉杖
変化しない
メタファー:人魚
メタファー:ワニ



 要は、ここでは今後現状維持、あるいは変化しないことで得る利益、これが二次利得をあらわすことになる。メタファーとしては人魚だ。日本だったら浦島太郎のお伽話を引いてどこかのCMのような乙姫ということになるのだろう(笑)。ここで変化を起こすには、財宝への期待を上げるか、倒産寸前の企業のようにワニのメタファーで表される、変化しないことの不利益が高まる必要があるということになる。もちろん、一つは、ヒューリスティクスと認知バイアスを考慮する[8]、もう一つは、ここに組織と個人、部分と全体の関係を考慮する必要があるため、実際はもう少し込み入った話になる。

 さて、これも一つの知見だ。

 エリクソンならば二次利得もユーティライゼーションを使って変化の資源として活用することになるだろう。[9] もちろん、こういったことから分かるのはエリクソニアン・アプローチはかなりシステム思考的だということだ。もちろん、エリクソンは手なりなり天然でこれをやっていたのだろうが・・・・・。


(つづく)

文献
[1]https://www.hypnosisalliance.com/articles/What%20Is%20Ericksonian%20Hypnosis%20-%20Michael%20Yapki%20-%20Bernie%20Zilbergeld%20-%20Gerald%20Edelstein%20-%20Daniel%20Araoz.pdf
[2]https://books.google.co.jp/books?id=OWzCp0wRsJ8C&pg=PA350
[3]http://ori-japan.blogspot.jp/2014/09/blog-post_4.html
[4]http://ori-japan.blogspot.jp/2013/10/blog-post_16.html
[5]https://books.google.co.jp/books?id=rWL2GyTFzDsC&pg=PA187
[6]http://ori-japan.blogspot.jp/2016/11/blog-post_8.html
[7]http://ori-japan.blogspot.jp/2016/07/blog-post_14.html
[8]http://ori-japan.blogspot.jp/2013/01/blog-post_21.html
[9]http://ori-japan.blogspot.jp/2016/11/1.html

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