2016年12月14日水曜日

ミルトン・エリクソンのアプローチとは?(まとめ)


                                                                                                                             
 エリクソンの技法は第二次サイバネティクスのメガネをかけないと見えない(笑)。

 <ひとりごと>



観察者の枠組み

 備忘録として書いておく。

 少し前に、エリクソニアンのマイケル・ヤプコの比較表を引いて心理療法家ミルトン・エリクソンのアプローチの特徴を書いた。

 今度は、同じエリクソニアンのスティーブン・ギリガンの「Therapeutic Trances」[1]からの比較表を眺めてみた。これについてこの記事からつらつら書いたが、ここではまとめを書いておく。


権威的アプローチ
(古典催眠)
標準的アプローチ
(学術検証の催眠)
協力的アプローチ
(エリクソン催眠)
ナイトクラブ、
治療(麻酔がない時代の外科手術、歯科手術)

学術的かつ実験的研究
心理療法、治療(歯科などで恐怖心を低減)
〈エンターテイメント〉
聴衆を楽しませる、誤解させる、驚かせる
〈学術研究〉
特定の現象を研究する
〈心理療法〉
認識や行動の変化を促す
催眠術師
被験者
セラピストと被験者の
協力的な関係
直接的で威圧的な命令
標準化された変化の示唆(通常は許容的)
極度に柔軟、クライアントのパターンに適応的
異様で普通でないパフォーマンス
実験的な指示に従う
安全な状況の中で建設的な人間関係を構築する
短い
短い
多様、しかし通常は30分から60分の催眠導入
被験者は抵抗するものだ
被験者は催眠感受性が低い
セラピストはクライアントの特定のパターンに順応する必要
被験者の振る舞い
被験者の振る舞い
被験者の内的経験と結果としての振る舞いの変化
    この表を眺めていて、ふと考えたことがある。それは、「観察者としての自分がどんな枠組みでこの表を眺めていたのだろうか?」ということだ。

 答えを急ぐ必要はない。MRIのシステム論的な介入のポリシーでもある「Go Slow !」[2]だ(笑)。

  だが、この表示自体がエリクソニアンのスティーブン・ギリガンによって書かれたものだということは考慮する必要がある。ギリガンが学士時代に通っていたカリフォルニア大学サンタ・クルーズ校を構成するカレッジのひとつであるクレスギー・カレッジでは人類学者のグレゴリー・ベイトソンが教鞭を取っていた。ギリガンもその生徒の一人だ。また、ミルトン・エリクソンにも師事した、がエリクソンは自分自身の暗黙知を形式知として残さなかった。それで、ベイトソンたちは第二次サイバネティクス[3]を持ち込んで、エリクソンの技法を形式知化した。これが裏にある構図だ。

 あまり大きな声では言えないが、不思議なことしか目に入らないと「催眠、催眠、催眠」しか見えなくなる。もちろん、これは必ずしも悪いことではないように思う。つまり、これが良い意味で「目眩まし」になっているからだ。本当に重要なのは「催眠」ではなくて「変化の原理」[4]だからだ。トランス誘導ができたかといって、サイバネティクスの枠組みを当てると合理的だと分かる介入が出来ないと、認識や行動の変化へは導けないということになる。もちろん、エリクソンが行う奇想天外で突拍子もない行動指示が何を目的に行っていたのかも理解できないということになる。


もちろん、単なる催眠を楽しんでいる人たちをとやかくいうつもりはない。これはこれで宴会芸と見れば目的合理的があるからだ。

    その意味では、エリクソンの技法はサイバネティクスを当てないと分からない、もう少し正確に言うと形式知化が困難ということになるだろう。もちろん、海から取り出した塩を水に溶かしたからといって海に戻るわけではない。しかし、サイバネティクスを当ててエリクソンの暗黙知を形式知化するのはそれほどセンスは悪くはないのだろう。

   このあたりの話は、ネットに転がっていた American Journal of Clinical Hypnosisに投稿されていた「Systemic Hypnotherapy: Deconstructing Entrenched Ambivalent Meanings In Self-Organizing Systems」[5]に詳しい。もっともここでは暗黙知としてのエリクソニアン・アプローチと第二次サイバネティクスで形式知したアプローチを近似と断ってはあるのだが。

 余談だが、アンプレビーの説明する第二次サイバネティクスの資料がある。[6] 個人的にはフランシスコ・ヴァレラくらいまでしかトレースしていないのだが、人によって定義が異なるのもこれはこれで面白い。

(サイバネティクスの定義の違い)
定義した人物
第一次サイバネティクス
第二次サイバネティクス
ハインツ・フォン・フォルスター
観察されるシステムのサイバネティクス
観察するシステムのサイバネティクス
パスク
モデルの目的
モデル化する側の目的
ヴァレラ
制御されたシステム
自律したシステム
アンプレビー (1)
システムの中の変数間のやり取り
観察するものと観察されるものとのやり取り
アンプレビー(2)
社会システムの理論
観念と社会の間のやり取りの理論


(3つのバージョンのサイバネティクス)


工学的サイバネティクス
生物学的サイバネティクス
社会学的サイバネティクス
認識論の概説
現実主義的認識論:知識は現実の「描写」
生物学的認識論:脳がどのように機能するか
現実主義認識論:知識は人間の目的達成のために構成される
主要な区別
現実 vs.科学的理論
現実主義 vs.構成主義
生物学的認識 vs.社会参加者としての観察者
解決すべき課題
観察された現象を説明する理論を構築すること
科学の領域にある観察者を包含すること
自然科学と社会科学の関係を説明すること
説明しなければならないこと
世界はどう機能しているのか
個々人がどのように「現実」を構築・構成するのか
人は観念とコトバを通してどのように世界を構築・構成、管理、変更するのか

 工学的サイバネティクスは映画やアニメのサイボークみたいな世界だ。また、ミルトン・エリクソンの技法をどのように観察するのか?を考えた場合、個人の認識や振る舞いの変化の範囲であれば、生物学的サイバネティクスの範囲で考えおり、家族や組織の認識や振る舞いのように家族療法や組織マネジメントへの応用を考えている場合は、社会学的なサイバネティクスの範囲で考えていることになる。もちろん、個人技みたいなものをいくら磨いてもそれを活かす場所や組織が用意されていないと意味がないわけであり、通常は社会学的なサイバネティクスまで考慮する必要がある。

 それで、第二次サイバネティクスのメガネをかけて、このあたりまで考えてはじめて、鬼手仏心で行う奇想天外な介入の背景に何があるのかが見えてくることになる。もちろん、エリクソンの理解に失敗しても、第二次サイバネティクスが分かれば、トヨタ生産方式が理解できるとか、外交が理解できるとか、経済が理解できるとか、色々応用範囲は広い(笑)。

(つづく)

文献
[1]https://books.google.co.jp/books?id=rNe8zXXAqDEC&pg=PA12#v=onepage&q&f=false
[2]https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2789564/
[3]https://www.amazon.co.jp/Theory-Constraints-Handbook-James-Cox/dp/0071665544
[4]https://www.amazon.co.jp/dp/4588021354/
[5]http://www.asch.net/portals/0/journallibrary/articles/ajch-50/50-1/fourie50-1.pdf

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