2016年12月15日木曜日

ミルトン・エリクソンの系譜:カール・トム博士の質問システム


                                                                                                                             
 第二次サイバネティクスくぐらせたエリクソン派を継承する質問。

 催眠を使わずにクライアントの認識と行動の変化を支援できる。

 個人でもグループでも、日常生活でも仕事の場面でも使える。

 <ひとりごと>



ネットの情報は役に立つ、ただし学術論文だけ

  備忘録として書いておく。

  DeNA社の医療系キュレーション・メディアの問題が報道されている。[1]  もちろん、ここでDeNA社のことを批判するのが目的ではない。何らかの事件の中にも学ぶことは多い。ここでは会長の南場智子氏が語っている 
『ネットの情報は役に立たない』『信頼できない』と判断した。その後、学術論文を読んだり、専門家からレクチャーを受けたり、という方向になっていった
という話は重い。このblogでは心理療法家のミルトン・エリクソンの記事を取り上げることがあるが、強調しておきたいのはやはり学術論文や著作にあたる重要性だろう。個人的にはエリクソンの技法をコーチングやチェンジ・マネジメントのファシリテーション等の用途に限定しているのでDeNA社のような問題とはリスクを切り離してある。だが、何か正確な情報を知りたいと思ったら、流派の違いによる前提や哲学のあるものの学術論文を英語でワシワシ読むのが一番手っ取り早い方法だ。一般的にネットの情報は正確ではないが、もっとも大きな問題は前提にある枠組みが古いことだ。例えば、エリクソンは構成主義や第二次サイバネティクスで見ないと見えないからだ。今更100年以上前の古典催眠と比較したり、暗示がどうのこうの[2]、というレベルの話ではないからだ。

 さて、話を続けたい。今日は、人や組織の認識や行動の変化を導くための「質問」の話をしたい。書店に行けば、コーチングやファシリテーションの話、特に「質問」について書かれた著作にはことかかない。例えば、質問は5W1Hだの、クローズド・クエスチョンだのオープン・クエスチョンだのといったつまらない著作だ。なぜ、つまらないかというと質問の字面だけしかみていないからだ。結局、この程度の著作だと単なる相手から情報を取るだけのためにしか有効ではない。つまり、個人や組織の認識や行動の変化を目的とした質問やリフレーミングとは無縁のレベルでコーチングやファシリテーションには活用できないということになる。しかも、MRIのポール・ウオツラィックが変化のレベルとして第一次変化(First Order Change)と第二次変化(Second Order Change)の2つのレベルを想定していた[3]が、認識や行動の枠組み自体が変化する、いわゆるパラダイム・シフトのレベルである第二次変化まで導くことは難しい。

 さて、それでも世の中よくしたものだ。学術論文を読んでいくと、面白い「質問」のやり方が見つかる。ここでは人の認識や行動の第二次変化を導く「質問の体系」であるので質問システムといったほうがよいだろう。結論から言えば、カルガリー大学の医師で家族療法家のカール・トム博士の体系化した「質問システム」ということになる。[4][5]

   この「質問システム」にはいくつかの特徴がある。大きな特徴は、エリクソン派の特徴である①戦略的、②ユーティライゼーション、③間接的、を備えながら催眠、トランス誘導を使わなくて同じことが出来るということだろう。で具体的には以下だ。

  • 催眠、トランス誘導を使わない→怪しくなく、仕事や日常で使いやすい
  • 人の変化を支援するための、エリクソン→MRI→ミラノ派[6]を継承する円環的質問、→当然、第二次変化までを対象とする
  • ただし、問題の定義、戦略の規定の部分は直線的質問を使う
  • 個人でもグループでも活用できる→相手や組織の本来もっている資源・資質を暗黙的に引き出す
  • 戦略的だが、間接的にファシリテーションを進められる
  • 暗黙的で間接的なリフレーミングが組み込まれている→抵抗を回避
  • ファシリテータがリフレーミングするのではなく利害関係者にリフレーミングしてもらう(しかも暗黙的、かつ間接的に)→間接的、かつ利用(ユーティライゼーション)
  • 被験者ではなく利害関係者を活用して被験者、あるいは組織を活性化する、よりよい人間関係の構築をめざす
  • ファシリテータ自体がコンテンツに精通している必要はない
  • ファシリテータは変化のプロセスをファシリテートすればよい
  • 構成主義、第二次サイバネティクスを前提としている[7]

 
 以下に全体のオーバービューをサマリーしておく。


 構図としてはミラノ派の円環的な質問を練りに練ったような構図になっている。もちろん、円環的な質問はベイトソンの円環的因果関係[7]をもとにしており、MRI的には囚人と看守の話[8]と関係がある。それで簡単に言ってしまうと、セラピストやファシリテーターが直接リフレーミングをするのではなく、他の参加者や利害関係者のコトバをかりて相手の認識の枠組みを間接的にリフレーミングするような技法というのがこの「質問システム」のポイントだ。

それで、簡単に全体のプロセスを見ると、
  1. 問題からその背景にある枠組みを特定する(直線的因果関係を前提にする)
  2. その背景にある枠組みをデフレーミング、リフレーミングする(円環的因果関係を前提にする)
  3. 新しい枠組みのもとでアイディアや施策を考える(円環的因果関係を前提にする)
  4. 物事を戦略的に実行する(直線的因果関係を前提にする)(※エリクソンの場合は、円環で偶発的出来事も手段に取り込む感じになるだろう)
というような感じになる。もちろん、難しいことを簡単に出来るから「質問システム」なのだ。また、相手の利害関係や所属する家族や組織の自律性、自己回復機能を徹底的に信頼しているところがある。比喩だが、傷を直すのは医者ではなく患者の自己治癒力のような感じで、セラピストやファシリテーターはこの力を引き出す支援するだけ、という構図だ。

 こういった考え方が根底にあって、セラピストやファシリテーターではなく第三者に語らせる形式だから、説教じみた感じが一切ない。また、自己啓発のようにファシリテーションが参加者を支配するという感じにもならない。

 余談だが、こういった「質問システム」の論文を読むと、ベイトソンがNLP(神経言語プログラミング)にダメ出ししていた理由がよくわかってくる[8]。やはり、構造主義のNLPと構成主義的な枠組みでしかわからないミルトン・エリクソンの技法には大きな溝が存在することになる。だからNLPはどことなくマヌケだ(笑)。

 さて、そういった欠点を取り除いたソリューション・フォーカスト・アプローチの質問[9]も家族療法やグループ・ファシリテーションではカール・トムのフレームワークに乗せて円環的質問として使うとよいと思う。

 もっとも、この体系はミラノ派に含まれるので、ミラノ派が使えれば特に意識する必要はないように思える。また、ミルトン・エリクソンっぽくやりたいのであれば、このような「変化のロジック」や「暗黙的なリフレーミング」の方法や、「治療的ダブルバインド」の状況設定が分かった上で(よい心身状態を引き出すために)催眠導入を使うというのはありだろう。[10]


(つづく)

文献
[1]http://www.j-cast.com/2016/12/07285572.html?p=all
[2]http://ori-japan.blogspot.jp/2016/11/blog-post_30.html
[3]https://www.researchgate.net/publication/232948453_Second-Order_Change_in_Marriage_and_Family_Therapy_A_Web-Based_Modified_Delphi_Study
[4]http://www.familytherapy.org/documents/Interventive3.PDF
[5]http://files.eric.ed.gov/fulltext/EJ818439.pdf
[6]http://ori-japan.blogspot.jp/2016/10/blog-post_11.html
[7]http://ori-japan.blogspot.jp/2016/12/blog-post_14.html
[8]http://ori-japan.blogspot.jp/2013/11/nlp.html
[9]http://ori-japan.blogspot.jp/2012/12/blog-post_5.html
[10]http://ori-japan.blogspot.jp/2016/07/blog-post_1.html

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