2016年12月20日火曜日

ミルトン・エリクソンの系譜:お悩みの構図はパラドクス(その2)


                                                                                                                             
 「Either A or B で、選択に困っている・・・・・」

 人は<両極性>と<パラドクス>を認識すると軽いトランス状態に入る。

 ミルトン・エリクソンはこれを前提を超えた問題解決に利用した。

 <ひとりごと>



パラドクスの9つの類型を見ていく

  備忘録として書いておく。

  昨日、この記事で「いい大人がなぜ悩むのか?」について書いた。答えは、そこにパラドクスがあるからだ、というのがここでの答えだった。また、ここでのパラドクスを正しそうに見える前提と、妥当に見える推論から、実際に行動し、受け入れがたい結論が得られる」と定義した。

《パラドクスの類型と一般解は?》

  さて、ネットに落ちていた「Dilemmas and Tensions and Binds, Oh My!」[1] を読むと面白い。この中に典型的なパラドクスが9つ記載されているからだ。

 ここで、パラドクスを解決する方法はあるのか?

 もちろん、ここではパラドクスの類型と一般解としての方向性を考えている。

《9つのパラドクスの類型》


 さて、パラドクスの類型について書かれた表を上からひとつづつ見ていくことにしたい。もちろん、これが漏れなくダブリなく網羅しているのかは分からないが、日常生活や仕事の場面のパラドクスはある程度カバーしているように思われる。で、ここでは当然、人の認識ー行動を扱う、第二次サイバネティクスのレベルでの話になる。[2]


パラドクスの
類型
パラドクスの
要素
説明
両極性
両極端
《帯に短し襷に長し》
両極性は特定の状況でパラドクスを生む。例:意識か無意識か、敵か味方か、生か死か、理想か現実か、認知か行動か、個人か集団か、計画か実行か、理論か実践か、現状維持か変化か、分散か集中か、既製かオーダーメイドか、自由か責任か、短期か長期か、論理か直観か、一般か個別か、など。
ダブルバインド
分断

ジレンマ
分断

自己参照
一連のループ

好循環、悪循環
一連のループ

自己成就予言
一連のループ

もつれ
ひっくり返す

予期せぬ結果
ひっくり返す

論理的パラドクス
ひっくり返す、一連のループ


 一つ目は両極性(ポラリティ)についてのパラドクスだ。両極性とは、2つの相互に漏れなく排他的で対になる概念のことだ。例えば、光と影、生と死、意識と無意識とかそういった概念だ。もちろん、ここで「ウンコ味のカレーかカレー味のウンコか?」のような概念もあるが、これは相互に漏れなく排他的ではないので両極性の概念とはならない(笑)。

 もちろん、両極性の認識がいつもパラドクスに陥るわけではない。当然、ここには状況が存在している。簡単に言うと「帯に短し襷に長し」の状況、つまり Either A or B の状況があり、AもBも適当ではなく、でもどちらか選ばねば「はて困った」というような場合がこれにあたる。

 さて、これについてエリクソニアンのスティーブ・ランクトンの「The Answer Within: A Clinical Framework of Ericksonian Hypnotherapy」[3]に記述を読んでみる。


Erickson's typical approach to induction represented a departure from the historical use of devices and direct suggestion. Erickson captured a person's attention with paradox or metaphor, or by utilizing the presenting behavior. Fixation of attention is itself a minimal alteration in consciousness and produced sign of light trance. But Erickson was quick to appeal to client's ability to dissociate pattern of thinking. By establishing a polarity in the client's thinking called the "conscious and the unconscious," Erickson helped his clients produce a uniquely personal hypnotic trance.

エリクソンの典型的な誘導方法は、歴史的なデバイス使用や直接的示唆(暗示)からの脱却を表していた。エリクソンはパラドックスやメタファーを使って人の注意を捉えたり、提示する行動を利用したりした。「注意の固定」それ自体は、意識の変化が少ない、軽いトランスの徴候を引き起こす。しかし、エリクソンはクライアントが思考パターンを(保留して)分離する能力に魅力を感じた。クライアントの思考に「意識ー無意識」と呼ばれる両極性を持った思考を確立することでクライアントがそれぞの人にユニークなトランス状態を引き出す支援を行った。

 
 面白いのは、エリクソンが両極性を利用してクライアントをトランス状態に導いていたという事実だ。これがエリクソンが自然主義と言われる所以でもある。[4] 理由は一見、なんの変哲もない普通の会話を通して問題解決の資源・資質(リソース)を探すためにクライアントがトランス状態に導かれるからだ。もちろん、トランス状態が何か不思議なことを起こすのではない。エリクソンはクライアントの不安を取り除き、課題に向き合う心身状態になれるようにトランス状態に導いた。[5]

 もちろん、ここでは相互に漏れなく排他的な概念として、状況設定をして「意識-無意識」を使っていることになるが、本質的には、これが「光と影」でも「男と女」[6]でも、はたまた「理想と現実」でも理屈上はクライアントが相互に排他的な両極性と認識しており、かつそこにパラドクスの認識が加われば、同じようにトランス状態に誘導されることになる。実はこういうさりげないところがエリクソンの技法の格好良さだ。ある意味、「催眠」を強調しても気持ちが悪いだけだからだ。

 余談だが、自己啓発などで「潜在意識ガァー」と意識の片方だけをより強調しているような例が見受けられるが、本質的には両極性をパラドクスとして認識することが重要なのであり、「潜在意識ガァー」と何万回唱えて実は意味がないことが分かる。あまり本当のことを書くと怒る人が出てきそうなので先を続ける(笑)。余談ついでに言っておくと、小泉元総理は両極性のパラドクスを使うのがうまかった。郵政選挙の際、自民党の中を「敵か味方か」で極端に2分して立場を明確にするように指示した。当然、中立は不可。態度保留は敵。そして、敵には刺客を送った。観客はこの劇場に酔った。その意味、小泉元総理のメッセージは状況設定をした上での Either A or B のロジックをワンフレーズで使うのがうまかったということになる。候補者の視点でのパラドックスを、有権者のメタの視点で楽しんでいたのがこの構図だ。

《日常でも自然とトランス状態に入っている》

 さて、日常や仕事の場面では、ある意味、これは重大問題だ、それは「事象が両極性(ポラリティ)を持ったパラドクスを含む問題と認識されると、誰でもトランス状態に入る」からだ。単に「催眠」といった気持ちの悪い問題ではなく、認識ー行動の問題になるからだ。もちろん、ここにはエリクソンは必要ない。この状態は人によって違うだろう。ある人は、解決すべき問題が来たと奮い立ち、ある人は弱ったなと思い悩み、ある人は面倒くさいことになったな・・・・・という具合だ。で、この状況になると仕事の会議室でも日常のリビングでも誰でもドランス状態に入る。

 さらに続けると、本当の問題は「猫じゃらしを見た猫」のように、この問題に「一か八か」というような二元論的な状態で注意が固定されるのが本当の問題なのだ。この状態は裏にある大きなループを感じない状態で、ただ現象に反応しているだけだからだ。当然、システム論な問題解決を難しくする。これは誰でも経験していることかもしれない、両極性の認識が混乱を招くと、仕事や日常で思わぬミスをしたり、忘れ物をしたり、事故を招いたりする要因の一つとなるのは納得してもらえるだろう。余談ついでにいっておくと、これを防ぐ一つの手段としてマインドフルネス瞑想がある。もちろんエリクソニアン的には、マインドフルネスの状態は外向きのトランス状態となる。[7]
 
 話をもとに戻そう、ミルトン・エリクソンは「意識ー無意識」という両極性を含んだコトバを使ってクライアントをトランス状態に導き、両極性に囚われない問題解決などに適切な心身状態を引き出した、ことになる。更には、両極性のパラドクスを使って両極性のパラドクスから抜ける方法を示唆していたようなエリクソン自体の技法がパラドクスを含んでいるところが面白いところだ。

《エリクソンのやり方》

  トランス誘導に導いた後、エリクソンは Both A and B、あるいはその枠組みの外に出るような Neither A nor B  の示唆をしたりメタファーを話したりする。これがある意味エリクソンのスタイルだ。ある意味、パラドクスにパラドクスをぶつけるというのはこんな感じになる。

《Both A and B: A もB も 》

   この時期、事例を出すのが適当かどうかは分からないが、Both A and B の使い方がうまかったのは、ショーンK氏だ。[8]  「大手とベンチャーのどちらに就職するべきか?」「二項対立で語ってはいけない」。ある意味、Either A or B に囚われている人で、こういったBoth A and B の説得のロジックを知らない人にとっては新鮮に聞こえるし結構有効だ。個人的にはこれを視聴した時「ハーバード交渉術を素のまま使っとるヤン」と思ったものだ(笑)。さて、普通は、Either A or B とパラドックスを強調して極軽いトランス状態に導き、そして Both A and B のメタファーを当てるような形になる。

《Neither A nor B:A でもBでもない》

 これを説明するには仏教の中阿含経に入っている有名な毒矢の喩え話がよいだろう。[9]簡単にいうと死後の世界はあるか?ないか? Either A or B で悩んでいる弟子に、釈迦が毒矢のメタファーを使って、ないとも言えないがあるともいえない Neither A nor B のロジックつかって諭したという構図になる。実際にエリクソンがこのメタファーを使ったわけではないが構図は似ているところがある。このメタファーが決まると、死後の世界はあるのか?ないのか?の囚われから、あっても、なくてもどちらでもよい、今ココに集中する、という認識に変わる。

 もちろん、エリクソンの技法を一口で言うと、Either A nor B でトランス誘導を行い、Both A and B もしくは Neither A nor B の介入で思い込みや前提の枠組みから出てもらって、そして行動や反応を変えてもらう。簡単にいうとこれがエリクソンの技法の本質だ。逆にいうとトランス誘導だけしてもそれから覚めると何の変化も起こっていないことになる。余談だが、エリクソンの技法は個別対応だ、これを敢えて一般化して書こうとすると、「一般化ー個別化」という両極性とパラドクスの中に居ることになり書いている自分がトランス状態に入っているのかもしれない・・・・(笑)。

 さて、 ベイトソンやヘイリーやウォツラィックたちは、エリクソンの技法に禅との共通性を見出し、ヘイリーやウォツラィックは人生をかけてエリクソンを研究するようなことになった。[10] ヘイリーはスタンフォードの院卒だし、ウォツラィックはスタンフォード・メディカル・スクールでも教えてた人だから、こういった人を夢中にさせたエリクソンの技法には何か深いものがあるということだ。

 おわりに一つだけ書いておくと、パラドクス自体に良いも悪いもない、単に変化のために利用するものだということだ。また、パラドックスを感じているということはそれだけ真剣だということの裏返しでもあるように思えるのだ。

(つづく)

文献
[1]http://www.gwiznlp.com/wp-content/uploads/2014/08/Dilemmas-Tensions-and-Binds-Oh-My.pdf
[2]http://ori-japan.blogspot.jp/2016/12/blog-post_14.html
[3]https://books.google.co.jp/books?id=R2VxMM6fSl4C&pg=PA131
[4]http://ori-japan.blogspot.jp/2016/11/blog-post_12.html
[5]http://ori-japan.blogspot.jp/2016/07/blog-post_1.html
[6]http://www.hup.harvard.edu/catalog.php?isbn=9780674802827&content=reviews
[7]http://ori-japan.blogspot.jp/2016/07/blog-post_76.html
[8]https://www.youtube.com/watch?v=3v-NWdhBVMM#t=4m17s
[9]http://j-soken.jp/ask/2051
[10]http://ori-japan.blogspot.jp/2016/12/blog-post_2.html

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