2016年12月21日水曜日

ミルトン・エリクソンの系譜:お悩みの構図はパラドクス(その3)


                                                                                                                             
 悪い魔法使いにかけられたダブル・バインドは、

 よい魔法使いのダブル・バインドで解いてもらう。

 単純化して比喩的にいうとそういうことだ(笑)。

 <ひとりごと>



2種類のダブル・バインド

  備忘録として書いておく。

   この記事で「いい大人がなぜ悩むのか?」について書いた。答えは、そこにパラドクスがあるからだ、というのがここでの答えだった。また、ここでのパラドクスを正しそうに見える前提と、妥当に見える推論から、実際に行動し、受け入れがたい結論が得られる」と定義した。

《パラドクスの類型と一般解は?》

  さて、ネットに落ちていた「Dilemmas and Tensions and Binds, Oh My!」[1] を読むと面白い。この中に典型的なパラドクスが9つ記載されているからだ。

 ここで、パラドクスを解決する方法はあるのか?

 もちろん、ここではパラドクスの類型と一般解としての方向性を考えている。

《9つのパラドクスの類型》

 さて、パラドクスの類型について書かれた表を上からひとつづつ見ていくことにしたい。もちろん、これが漏れなくダブリなく網羅しているのかは分からないが、日常生活や仕事の場面のパラドクスはある程度カバーしているように思われる。で、ここでは当然、人の認識ー行動を扱う、第二次サイバネティクスのレベルでの話になる。[2]

パラドクスの
類型
パラドクスの
要素
説明
両極性
両極端
《帯に短し襷に長し》
両極性は特定の状況でパラドクスを生む。例:意識か無意識か、敵か味方か、生か死か、理想か現実か、認知か行動か、個人か集団か、計画か実行か、理論か実践か、現状維持か変化か、分散か集中か、既製かオーダーメイドか、自由か責任か、短期か長期か、論理か直観か、一般か個別か、など。
ダブルバインド
分断
どっちかをやっても罰を受ける、やらなくても罰を受ける。
ジレンマ
分断

自己参照
一連のループ

好循環、悪循環
一連のループ

自己成就予言
一連のループ

もつれ
ひっくり返す

予期せぬ結果
ひっくり返す

論理的パラドクス
ひっくり返す、一連のループ


 2つ目は、ダブル・バインド[3]ということになる。このドキュメントのパターンとしては、「二兎を追うものは一兎も得ず」に分類されるが、いきなり真打ち登場という感じだ。もちろん、エリクソンの技法を謳っていながら知らない、使えないというのは論外というくらい根幹のところでもある。

 もちろん、ダブル・バインドは人類学者のグレゴリー・ベイトソンと心理療法家のミルトン・エリクソンから来ている。[4] 後述するが、統合失調症の原因仮説としての統合失調症的ダブル・バインドとこれからぬけ出すための治療的ダブル・バインドは表裏一体だ。比喩的には、悪い魔法使いにかけられる統合失調症的ダブル・バインド、よい魔法使いがこれを解いてくれる治療的ダブル・バインドということになる。

  自身所有の Collected Papers 「Varieties of Double Bind (1975)」[5] というタイトルの論文が含まれているが、このあたりから読み始めてみるのがよいだろう。個人的にはネットの情報は学術論文以外は大体インチキが多いので、Collected Papers を手放せなくなっている(笑)。もちろん、インチキな情報に怒っているわけではなく、本当かどうか調べるきっかけにはしているので、実は案外重宝しているところがあるのも確かだ。だから、インチキな情報はエリクソンに倣いユーティライゼーションしているということになるだろう(笑)。

 また、ネットの情報だとおおよそグレゴリー・ベイトソンの統合失調症的なダブル・バインドだけに焦点があたっていることが多いが、本当の出発的はミルトン・エリクソンの治療的ダブル・バインドが先だ。現在は、統合失調症の原因仮説としてのベイトソンのダブル・バインドは学術的には怪しくなっているが、エリクソンの治療的ダブル・バインドは依然生きているということになる。ブリーフセラピーの概念として対として考えたほうがよいだろう。もちろん、1975年時点では、という但書がつくのかもしれないが。



統合失調症的ダブル・バインド
治療的ダブル・バインド
グレゴリー・ベイトソン
ミルトン・エリクソン
1
《2人以上の関係者》
「被害者」となる子どもは、母親あるいは両親、他の兄弟の組み合わせで罠にかけられる
《2人以上の関係者》
通常、クライアントとセラピストは肯定的でよい関係である
2
《繰り返される経験》
一回限りのトラウマとなる出来事と違って、ダブル・バインドは繰り返される
《ひとつ、あるいは一連の経験》
ダブル・バインドを含む一つ、あるいは一連の経験。どれか一つの経験が機能すればよい
3
《第一の禁止命令》
「それをするな、したら罰する」
《第一の肯定的な命令》
「セラピストは、クライアントがそのようなこと(統合失調症的ダブル・バインドに反応すること)を続けなければいけないことに同意する」
4
《第二の禁止命令》
第一の禁止命令と抽象的なメタレベルで対立する。第一の禁止命令による罰を強化する、あるいは生存を脅かすシグナルを含む
《第二の肯定的な間接暗示》
第二の肯定的な示唆は、抽象的なメタレベルで意識にあがっている(意識)と意識に上がっていないメタレベル(無意識)の創造的なやりとりができるようにファシリテーションする
5
《第三の禁止命令》
「その場から逃げてはいけない」
《第三はクライアントの理解》
セラピストとクライアントのラポール、あるいは転移によってクライアントが行動指示、タスクを実行することを支援する。ただし、クライアントが止めたい時はいつでも止められる
6
《条件の一部で構えができる》
最終的には、犠牲者がダブルバインドに反応するパターンはすべての条件ではなく一部の条件が満たされただけで反応するようになる
《治療の完了》
クライアントの行動が変化し、転移やダブル・バインドの拘束から自由になった時、クライアントは治療を完了する

 で、ベイトソンの統合失調症的なダブル・バインド自体がある意味、パラドクスだ。日常生活ではそうそうダブル・バインドにハマることはないのだろうが、ちょっとしたダブル・バインド的な状況にははまる可能性があることはこのあたりで書いた。で、余談だが第一の命令よりメタレベルで対立するというところは個人的には竹中直人氏の「笑いながら怒る人」[6]を思いだすことになる。一次レベルが怒っているでメタレベルが笑っている表情ということになり。怒っていても、ふざけてやっているだろうというようなメタ・メッセージになる。[7]

 さて、原因仮説としてのダブル・バインドの対になるのが、治療的ダブル・バインドということになる。構図としては、統合失調症的ダブル・バインドに、パラドクス、あるいはカウンター・パラドクスを当てている構図になる。

 具体的には、治療的ダブル・バインドは、①FREE CHOICE OF COMPARABLE ALTERNATIVES、②THE DOUBLE BIND IN RELATION TO THE CONSCIOUS AND UNCONSCIOUS、③THE TIME DOUBLE BIND、④THE REVERSE SET DOUBLE BIND、⑤THE NON SEQUITUR DOUBLE BIND、⑥THE SCHIZOGENIC DOUBLE BIND他、

 いくつかのダブル・バインドについては、このあたりで書いた。例えば、意識ー無意識のダブルバインドだと、単純化すると、「二兎を追う者は一兎をも得ず」に「帯に短し襷に長し」のパラドクスをぶつけているような構図になっている。もちろん、エリクソンは30から60分のトランス誘導の中でクライアントの見立てに応じてこういった治療的ダブル・バインドを含めて使ったことになる。

 また、余談だが、パラドクスの解決を徹底的なロジカル・シンキングでやるには、TOCの対立解消図や3クラウド法、あるいは TRIZの矛盾マトリックなどを使えばよいだろう。エリクソンのように無意識から少しゆるい感じでやるか、ロジカル・シンキングのように意識から緻密な感じでやるかは状況で選べばよいようには思えるのだが。

(つづく)

文献
[1]http://www.gwiznlp.com/wp-content/uploads/2014/08/Dilemmas-Tensions-and-Binds-Oh-My.pdf
[2]http://ori-japan.blogspot.jp/2016/12/blog-post_14.html
[3]https://en.wikipedia.org/wiki/Double_bind
[4]http://www.psychotherapy.com.au/fileadmin/site_files/pdfs/TheDoubleBindTheory.pdf
[5]https://www.amazon.co.jp/Collected-Papers-Hypnosis-Innovative-Hypnotherapy/dp/0470267240


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