2017年3月31日金曜日

ミルトン・エリクソン論文全集を読む 90日目


                                                                                                                            
 フレームワーク化すると暗黙知は消える、

 ただし、怪しくない形式で多くの人が使えるようになる。

 その点、円環的質問は形式知としては案外いい線いっている。

 <ひとりごと>



はじめに

 備忘録として、



 お正月から、ミルトン・エリクソンの論文全集『The Collected Papers Milton H. Erickson』[1] を読んでいる。読み方のルールはここで書いた。

 90日目について書いておきたい。


祖母、母、子の三世代のくしゃみのパターンの共通性
 「Appearance in Three Generations of an Atypical Pattern of the Sneezing Reflex (1940)」から。著者はミルトン・エリクソン。

   祖母、母、娘の標準的ではないくしゃみのパターンを観察するというもの。なかなか面白い話だ。



祖母、母、子の三世代のくしゃみのパターンの共通性

     「An Addendum to a Report of the Appearance in Three Generations of an Atypical Pattern of the Sneezing Reflex (1964)」から。著者はミルトン・エリクソン。

     上の続き。随分気の長い話だ。
    ・・・・・・・
     

    随考

     エリクソン論文全集を読んでいて個人的に思うことがある。「誰かに要旨を説明するにはどうしたらよいのか?」だ。

     相手の知識レベル、あるいは立場によっても違うだろう。普通の人が相手だと「催眠」のような用語を出した時点でそもそも怪しい(笑)。特に、企業のコーチングやファシリテーション研修のようなところでは「催眠」をやりましょう、ということにはならないだろう。たとえそれが臨床催眠のようなものであってもだ。

     結論から言うと、「フレームワークを使って説明する」ということになる。

     これについて、そもそも論から考える。

     エリクソンを研究したベイトソンを含むカリフォルニア州パロアルトのMRIの人たちは、人の認識に着目し、サイバネティクスを持ち込んでエリクソンの技法を2つの方向性に還元して研究した、

    • ひとつは「戦略」
    • もうひとつは「コミュニケーションのやりとり」だ
     「戦略」は現状から理想となるゴールを思い描き、どのように達成するのか?「コミュニケーションのやりとり」は、人と人との関係性を規定する。ゴールを達成する上で応援団に回ってくれることもあるだろうし、抵抗勢力になることもあるだろう。そいういった意味での関係性だ。

     ベイトソンたちは、短期療法や家族療法として形式知として体系化した。もちろん、この形式知はエリクソンのすべてを反映したものではないことは確かだ。

     結局、そもそもの目的は、問題や課題の解決だった。そのためには、「変化」が必要だった。具体的には以下になるだろう、当然、ここでは枠組みを超えた変化である二次的変化(Second-order Change)を志向している。

    • 認識の枠組みが変化することによる
      • 行動の変化
      • 人と人との関係の変化
      • その他

    そう考えると、「催眠」などの色々な方法論は所詮、「変化」を目的とした手段でしかない。

     このうち「コミュニケーションのやりとり」によって「変化」をもたらす、の方向が進化すると、ミルトン・エリクソン→MRI→ミラノ派家族療法(円環的質問)カール・トム博士の質問システム、という方向になる。もっというと、暗黙知の多いエリクソンの技法が形式知化されている。

     もっとも、カール・トム博士のほうの質問システムはネットを検索すると、更にモデル、あるいはフレームワークが更新されていることが分かる。「Interventive Interviewing Revisited and Expanded」を読む。通常のモデルが構成主義的でより変容を志向したトランスフォーメーショナルな感じに変わっており、コンテクストの視点とメタの視点が追加されているのが格好がよい。要は、自己啓発で言われているような「抽象度を上げて考える」のようなメタ認知が促される。結果、問題や課題を外在化したり、状況との相互作用を冷静に考えられるようになる。直線的な因果関係で、この時はこれしか方法がない。という状態からより全体的に、よりシステム思考的に物事を考えられるようになる。ある意味、デカルトの世界観からベイトソンの世界観への転換、つまりリフレーミングでもある。
     
     あまり、大きな声では言えないが、形式知としてのフレームワークがエリクソンの暗黙知に少しずつ近づいていっているようにしか思えない。これはこれで一興だ。

     ただ、こういったフレームワークにもよい点がある、例えば以下だ。

    • 催眠を使わなくても思考や行動の変化が導ける
    • 間接暗示を使わなくても円環的質問法がそれに変わる
    • フレームワークを一つのパターンとしてユーティライゼーションができる
    • 円環的質問法が二項対立のパラドクスを解決する
    • 物事を単純な二項対立から、よりシステム思考的に考えられる支援をする
    • コーチング、ファシリテーションに使える
    • ワイガヤ、ブレストにも使える
    • なにより、他人にポイントを絞って説明できる、簡単に学べて使える 
     もちろん、カール・トムの論文を読んでいて、「エリクソンのあの技法がこうなるのか」というところはあるのだが、少なくとも、普通の人が普通に質問だけするような形式で学べて、結構簡単に使える。これはこれで面白い。

     また、あまり大きな声では言えないのだが、人の思考の枠組みや行動の変化を支援する理屈はこのあたりがミソで、実は催眠誘導に成功したところで変化は導けない。ベイトソンたちが研究していたのも、エリクソンがやっていたのも、結局は「変化の理屈」だったということだ。サイバネティクスの視点で観察してはじめて分かることだ。

     一度、こちらの視点に出てエリクソン論文全集を読む。「変化の理屈」が見えてくる。その上でやりたければ、催眠誘導もやればよい話だ。一度、形式知化することで本質が見えていることがある、これはこれで面白い。結局、本当に学ばなければならないのは「催眠誘導」ではなく「変化の理屈」だということだ。

     エリクソンの暗黙知は継承できていないかもしれないが、企業などで怪しくない形式で使えるようにはなる。
     

    3月31日の進捗、718ページまで(全体 2,648ページ、進捗率 27.1%) 

    Volume 2 : HYPNOTIC ALTERATION   OF SENSORY, PERCEPTUAL    AND PSYCHOPHYSIOLOGICAL   PROCESSES

    Appearance in Three Generations of an Atypical Pattern of the Sneezing Reflex
     Milton H. Erickson Reprinted with permission from The Journal of Genetic Psychology, 1940, 56, 455-459. 

    An Addendum to a Report of the Appearance in Three Generations of an Atypical Pattern of the Sneezing Reflex Milton H Erickson Reprinted with permission fromPerceptual and Motor Skills, 1964, 18, 309-310. 





    (つづく)

    文献
    [1]http://ori-japan.blogspot.jp/2017/01/collected-papers.html


    記事の内容の正誤について、執筆者は一切保証いたしません。また、本書の内容、エクソサイズなどを実行した結果被った被害などについて著者は一切責任を負わないこととします。本ニュースレターの内容は、以下クリエイティブ・コモンズ・ライセンスに従うものとします。但し、引用元の著作権は引用元に所属します。ご意見、ご感想は次へ tritune'`@''gmail.com
    https://www.facebook.com/Okirakusoken-236949276723679

    ――

    2017年3月30日木曜日

    ミルトン・エリクソン論文全集を読む 89日目


                                                                                                                                
     餅は餅屋で、

     今日は、医学ネタ、

     認知科学から外れているから、だんまりを決め込もう(笑)。

     <ひとりごと>



    はじめに

     備忘録として、



     お正月から、ミルトン・エリクソンの論文全集『The Collected Papers Milton H. Erickson』[1] を読んでいる。読み方のルールはここで書いた。

     89日目について書いておきたい。


    心因性で発達の遅れている小さいバストを催眠で大きくする!?
     「Breast Development Possibly Influenced by Hypnosis (1960)」から。著者はミルトン・エリクソン。

        一つ目のケースは20歳の女性の話。心因性の要因で胸の発達が遅れている。姉が催眠を試みる。結果、1)アルコールへの依存がほぼなくなる、2)宗教心にあふれ、ソロモンの歌を毎週読むようになる、3)大学へ戻り過去失敗した講座を再履修、4)社会的活動、レクリエーションに従事するようになる、5)職を得る、6)数年来知り合いの同じ世代への関わりの増加、7) 片側 1インチ、もう片側は1.5インチ、胸が大きくなった。

     二つ目のケースは17歳の女性の話、心因性の要因で胸の発達が遅れている。催眠で心因性の要因を取り除く・・・・

    ・・・・・・・・・・

     ただし、両方ともあまり厳密な検証は行われていない。おそらく、エリクソンがこのような話を取り上げたのも今後の研究の「ネタ振り」のように思われる。要は、先ず隗より始めよ、という感じだ。

     細かい技法については書かれないないがおおよこのような話。エリクソンも胸の発達に催眠がどの程度関与しているのか?よく分からないと書いている。ある意味、おおらかな時代の論文と思って読むと面白いのだろう。



    心因性などで周期などが不安定になった月経に催眠が及ぼす影響

       「Psychogenic Alteration of Menstrual Functioning: Three Instances  (1960)」から。著者はミルトン・エリクソン。

       これも医学ネタになるので細かいことは書かない。要点だけ書いておくと、強いストレスを受けると女性の月経の周期が乱れたり、止まったりする。こうなった場合に、催眠を使ってもとに戻せるのか?3人の被験者について考察した論文がこれにあたる。

      ・・・・・・・
       

      随考

       このあたりの論文を読んでいると思う。ミルトン・エリクソンはやっぱり医者だなぁ、ということだ。学位で言うとM.D. 、エリクソンはこれに加えて心理学の M.A.の学位を持っている、日本だと(文系の)修士号に相当する。

       それで、今日は医学ネタなのでまったくの門外漢。英語の行間まで読めてはいるのだが、だんまりを決め込む日だ(笑)。


      3月30日の進捗、710ページまで(全体 2,648ページ、進捗率 26.8%) 

      Volume 2 : HYPNOTIC ALTERATION   OF SENSORY, PERCEPTUAL    AND PSYCHOPHYSIOLOGICAL   PROCESSES

      Breast Development Possibly Influenced by Hypnosis: Two Instances and the Psychotherapeutic Results 
      Milton H. Erickson Reprinted with permission fromThe American Journal of Clinical Hypnosis, January, 1960, 11, 157-159. 

      Psychogenic Alteration of Menstrual Functioning: Three Instances 
      Milton H. Erickson Reprinted with permission from The American Journal of Clinical Hypnosis, April 1960, 2, 227-231. 




      (つづく)

      文献
      [1]http://ori-japan.blogspot.jp/2017/01/collected-papers.html


      記事の内容の正誤について、執筆者は一切保証いたしません。また、本書の内容、エクソサイズなどを実行した結果被った被害などについて著者は一切責任を負わないこととします。本ニュースレターの内容は、以下クリエイティブ・コモンズ・ライセンスに従うものとします。但し、引用元の著作権は引用元に所属します。ご意見、ご感想は次へ tritune'`@''gmail.com
      https://www.facebook.com/Okirakusoken-236949276723679

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      2017年3月29日水曜日

      ミルトン・エリクソン論文全集を読む 88日目


                                                                                                                                  
       エリクソンの良いところは飽きないことかなぁ。

       いい暇つぶしにはなる。

       まぁ、人生の暇つぶしだけれど(笑)。

       <ひとりごと>



      はじめに

       備忘録として、



       お正月から、ミルトン・エリクソンの論文全集『The Collected Papers Milton H. Erickson』[1] を読んでいる。読み方のルールはここで書いた。

       88日目について書いておきたい。


      催眠による心因的不妊の治療
       「A Clinical Experimental Approach to Psychogenic Infertility (1958)」から。著者はミルトン・エリクソン。

        1958年の The American Society of Clinical Hypnosis の年次総会でのプレゼンテーション。心因的な不妊をかかえる20人の女性にシュルツの自律訓練法のような手法を教えて不妊に効果があるのか探った論文。医学的な内容になるので詳細は書かない。ただ個人的には催眠と結果の相関の証明が弱い感じはする。要は、やってみて結果オーライだから・・・という感じの印象は受ける。

       ただ、「心と体」は相互作用する、同じものだが別の現れ、ということを検証しているようには思える。

       だいたいこんな感じ。

      随考

       今日のところには関係ないが、ふとエリクソンのメタファーの話が心に浮かんだ。

      今は、とても便利な時代だ、キーワードを Google 検索に入力するとどこに書いてあったか教えてくれる(笑)。

       確かに、この話はジェフリー・ザイクの著作「Teaching Seminar with Milton Erickson 」[2] で紹介されていた。たしか悟策先生の監訳で邦訳もあった記憶。

       簡単にいうと、Ph.Dの試験でパニックを起こして単位を落としてしまう女性がいる。個人的にはじゃぁマスターまではどうやっていたんだ?という疑問が湧くのだが(笑)。ここではそういう設定。ピーターの法則ではないが難しいことに挑戦し続けているが故にある日突然壁にぶつかったり、何かのきっかけでスランプになるというのは誰にでもある話だ。

         それで、エリクソンはこの女性をトランス状態にして、弁護士試験に挑戦している男性の話を始める。間接暗示でもあるのだが、これがこの女性についてのアイソモルフィックなメタファー[3]となっている。


      Now,as for the lawyer,all I did for him was to make him think Arizona was a nice place to live,and that the law examination was awfully unimportant; so he had no anxiety,no fear. He only had to write one little trickle of information at a time.Anybody can do that. And I've treated quite a number of lawyers in the same way --- and medical men in the same way --- by giving them a feeling of mental peace, of confidence and of self-assurance.

       
      エリクソン風に声に出して読んでみる。

       弁護士にもできる、誰にでもできる、医療関係者にもできる、だからあなたにもできる。心の平静と自信を持って取り組むころが・・・こういった言外のメタ・メッセージを伝えているところがミソのようにも思える。

       メタファーも、セラピストがつくるパターンと、クライアントがつくるパターンとがある。また、セラピストがつくるパターンでもトランス誘導ありの場合となしの場合がある。何れにしても色々なバリエーションがあるということだ。

       もちろん、この場合は、セラピストがつくり、トランス誘導してデリバーされるメタファーとなっている。

          現在、メタファーについては、その多くは認知言語学で解明されつつ・・・、なところがあり、身体化されたメタファーを含め、人の認識や知覚が変化するところは単なる認知科学の範疇になっているところではある。[4]


      3月29日の進捗、702ページまで(全体 2,648ページ、進捗率 26.5%) 

      Volume 2 : HYPNOTIC ALTERATION   OF SENSORY, PERCEPTUAL    AND PSYCHOPHYSIOLOGICAL   PROCESSES

      A Clinical Experimental Approach to Psychogenic Infertility 
      Milton H. Erickson Edited from a presentation made at the American Society of Clinical Hypnosis Annual Meeting, October 4, 1958. 




      (つづく)

      文献
      [1]http://ori-japan.blogspot.jp/2017/01/collected-papers.html
      [2]https://books.google.co.jp/books?id=Kby2XJE8zoUC&pg=PA63
      [3]https://books.google.co.jp/books?id=UxlTjKiy23IC&pg=PA477&lpg=PA477
      [4]https://www.amazon.co.jp/Philosophy-Flesh-George-Lakoff/dp/0465056741

      記事の内容の正誤について、執筆者は一切保証いたしません。また、本書の内容、エクソサイズなどを実行した結果被った被害などについて著者は一切責任を負わないこととします。本ニュースレターの内容は、以下クリエイティブ・コモンズ・ライセンスに従うものとします。但し、引用元の著作権は引用元に所属します。ご意見、ご感想は次へ tritune'`@''gmail.com
      https://www.facebook.com/Okirakusoken-236949276723679

      ――

      2017年3月28日火曜日

      ミルトン・エリクソン論文全集を読む 87日目


                                                                                                                                  
       レトリックとして「人間」と「神」みたいなことを導入すると、

       エリクソンの「意識」「無意識」と同じような

       治療的、統合失調症のどちらのダブル・バインドもつくれるなぁ(笑)。

       <ひとりごと>



      はじめに

       備忘録として、



       お正月から、ミルトン・エリクソンの論文全集『The Collected Papers Milton H. Erickson』[1] を読んでいる。読み方のルールはここで書いた。

       87日目について書いておきたい。


      催眠による血流の変化
       「Hypnotic Alteration of Blood Flow(1958)」から。著者はミルトン・エリクソン。

       The American Society of Clinical Hypnosis が設立されるのが1957年、その翌年の年次総会で発表されたのがこの論文だ。

       冒頭、臨床催眠の定義としてよく見かける表現からはじまる。




       In medicine, dentistry, or psychology, the primary purpose served in the experimental and clinical use of hypnosis is the communication of ideas and understandings for the purpose of eliciting responsive behavior at both psychological and physiological levels. 


      医学、歯科、または心理学では、催眠の実験的および臨床的使用で役立てる第一の目的は、心理学的および生理学的レベルの両方で応答性行動を誘発する目的での考えと理解のコミュニケーションです。


       内容は非常にシンプル。2人の女性、5人の男性、合計7人の大学生の被験者に対して、催眠前、催眠状態、催眠後の血流の変化をプレチスモグラフで測定するというものだ。


      随考

       禅の教えに以下がある。刺激的だ。


       仏に逢うては仏を殺し、祖に逢うては祖を殺せ

      『臨済宗』示衆


       ある考えが浮かんだ。少し説明したい。

      《内向きのトランス状態を引き出す》

          ミルトン・エリクソンの技法に「意識ー無意識のダブル・バインド」がある。[2]

      この技法の「ねらい」は以下だ、
      • 初期の方向づけ
      • トランス状態の開発
      • 腕浮揚トランス誘導での利用
      • 過去退行トランス誘導での利用
      • トランス状態から覚めた後での活用
      • その他
         余談だが、コーチングなどで「目標は肯定的に」と言われているが、本当のプロは目標の方向付けはダブル・バインドでメタ・レベルの拘束力を持って行うということだ。

      さて、ひとつのバリエーションをあげると、以下のような形式で用いられる。X、Yは治療的な選択肢。


      Your conscious mind can X, while your unconscious does Y, or your  unconscious can X,while your conscious does Y.

      あなたの意識はXができる、一方あなたの無意識はYをしている、もしくはあなたの無意識はXができる、一方あなたの意識はYをしている。


      具体的には、


      Your conscious mind may have begun with the aid of your unconscious or perhaps your unconscious is ready to begin with any aid you can offer consciously.

      あなたの意識はあなたの無意識の助けをかりはじめているのかもしれません、あるいは、あなたの無意識はあなたが意識的に提供できるどのような助けにも準備をはじめているのかもしれません。


       まず、話の前提として以下がある。

      • 部分としての「意識」
      • 全体としての「無意識」

       この設定がエリクソンの禅問答のミソだ。これは、単なる概念であり、言葉のレトリックだ。実際に存在しているかどうかは問題ではない。しかし実体験としては、「意識」として知覚できる行動や運動などが、メタ・レベルの概念である「無意識」にバインドされる。そして、以下の「治療的ダブル・バインド」が設定される。

      • 何かやっていることに気づいた、→それはそれでOK
      • 何もやっていないことに気づいた→それはそれでOK
      • 何れにしても「無意識」でやっているので、逃れることはできない
       
       ある意味、カリフォルニア大サンフランシスコ校のベンジャミン・リベットの言う自由意志の問題のような話になってくる。つまり、無意識が最初に行動を起こして、意識はその後にそれに気づくだけという有名な話だ。

       さて、バインドされた知覚ー認識、例えば(手が上がるーそれに気づく)がサイバネティクス上のポジティブ・フィードバック・ループで増幅されると、結果、普段とは異なる意識状態であるトランス状態に誘導される。エリクソンの定番の腕浮揚のトランス誘導の背景にある理屈は大体こんな感じだ。

       この場合のトランスは、エリクソニアンのスティーブン・ギリガンの定義によると「Internally oriented trance (内向きのトランス」ということになる。つまり、こころの中に焦点が当たりどんどん引き込まれるという感じになる。[3]

       普通の人はこういった「意識ー無意識のダブル・バインド」で内向きのトランス状態が引き出される。内的な資源・資質(リソース)を引き出し活用するためにはこのトランス誘導に乗るというのは一つの方法だ。エリクソンの被験者は普通内向きのトランス状態に誘導される。

       もちろん、これは禅の教えの反対で、敢えて言うと「仏に逢うては仏を殺さず、祖に逢うては祖を殺さず」ということになるだろう。よい意味で「意識」「無意識」の概念を利用して内向きのトランス状態を引き出していることになる。もちろん、恒久的な変化のためには、さらに、このトランス状態を利用したり、メタファーを話したり・・・とトランスから覚めるまで続きはある・・・このあたりの介入はエリクソニアンに学ぶと分かる話ではある。

      《外向きのトランス状態》

       これとは反対のトランス状態として、同じギリガンの定義「Externally oriented trance(外向きのトランス)」がある。これは知覚が外に向いている状態で、こころの中の概念などに向いていない状態。言ってみればマインドフルネスの状態だ。宮本武蔵の目付けで武道家が闘う時のスキの無い状態でもあるが、エリクソンがクライアントと向き合っている時の状態でもある。エリクソンが周辺視野を使っている話は、このあたりで書いた。ギリガンの「The Legacy of Milton H. Erickson ...」にエリクソンがクライアントと向き合う時に自分の中のイメージや概念には焦点を当ててないことが書かれている。おそらく、コーチやセラピストはこの状態が取れないと良くも悪くもクライアントの影響を受ける。場合によっては疲労困憊するだろう。

       余談だが、エリクソンの妻のベティー・エリクソンの自己催眠の技法は、外向きトランスと内向きトランスの両方の練習方法が提供されている。

       話を戻すと、禅が求めているのは、エリクソニアンのいう外向きのトランスだ。つまり、「仏に逢うては仏を殺し、祖に逢うては祖を殺せ」という教えについて考えると、「仏」という概念に囚われてはいけない、「祖」という概念に囚われてはいけないということになるだろう。

       治療的ダブル・バインドと併せて考えると、「意識に逢うては意識を殺し、無意識に逢うては無意識を殺せ」つまり、「意識」「無意識」といった概念に注意を向けず、今ココに起こっているだけに注意を向けることで「内向きのトランス」には誘導されず「外向きのトランス」状態にいることができるという具合だ。つまり、それが統合失調症的ダブル・バインドだろうが、治療的ダブル・バインドだろうが、どちらにもハマらない、ということになる。メタ・レベルが「空」ならばダブル・バインドにははまりようがない。メタ・レベルは、所詮自分がつくった概念だということだ。

       クライアントに向かい合うコーチやセラピストに求められている状態だ。今ココにある外にある知覚に注意が向けられている状態は、マインドフルネスとも言う。つまり、コーチやセラピストはクライアントにマインドフルネスに向かい合わなければならないということが分かってくることになる。

       このあたりの観察は、ダブル・バインドの仮説をつくったグレゴリー・ベイトソンが無神論でエリクソンと同じ1980年にサンフランシスコの禅センターで亡くなったことはなんらか関係しているのかもしれない。

       余談だが、「人が見ていなくても、神様はあなたの一挙一投足を見ています」。よくある表現だが、これ自体にダブル・バインドの構造があるのは良くも悪くも要注意なのだろう。これは企業で、「今の社長がどうであれ、創業者が生きていたらどう思うだろう?」のような考え方もそうだ。これがよいほうに出れば時代は変わっても素晴らしい理念が維持されるだろうし、悪いほうに出れば時代が変わっても新しいことは何もできない、ということになるだろう。ただ、そのままでは、その枠組みから出られない。

      反対に、禅でも仏教も「無神論」であることは、こういったダブル・バインドにはまらないということではよくできているのかもしれない。マインドフルネスであるためには、「仏に逢うては仏を殺し、神に逢うては神を殺せ」というメタファーの意味が分かってくるだろう。要は、今ココにだけ知覚を開き、こころの中の概念に囚われてはいけないということだ。

      3月28日の進捗、694ページまで(全体 2,648ページ、進捗率 26.2%) 

      Volume 2 : HYPNOTIC ALTERATION   OF SENSORY, PERCEPTUAL    AND PSYCHOPHYSIOLOGICAL   PROCESSES

      Control of Physiological Functions by Hypnosis 
      Milton H. Erickson Originally presented at a hypnosis symposium at UCLA Medical School, June 25-27, 1952. Reprinted with permission from The American Journal of Clinical Hypnosis, July 1977, 20, 8-19. 

      Hypnotic Alteration of Blood Flow: An Experiment Comparing Waking and Hypnotic Responsiveness M
      ilton H. Erickson Unpublished paper presented at the American Society of Clinical Hypnosis Annual Meeting, 1958. 





      (つづく)

      文献
      [1]http://ori-japan.blogspot.jp/2017/01/collected-papers.html
      [2]https://books.google.co.jp/books?id=R2VxMM6fSl4C&pg=PA168&lpg=PA168&dq
      [3]https://books.google.co.jp/books?id=10ZwjOtcAuwC&pg=PA7&lpg=PA7


      記事の内容の正誤について、執筆者は一切保証いたしません。また、本書の内容、エクソサイズなどを実行した結果被った被害などについて著者は一切責任を負わないこととします。本ニュースレターの内容は、以下クリエイティブ・コモンズ・ライセンスに従うものとします。但し、引用元の著作権は引用元に所属します。ご意見、ご感想は次へ tritune'`@''gmail.com
      https://www.facebook.com/Okirakusoken-236949276723679

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      2017年3月27日月曜日

      ミルトン・エリクソン論文全集を読む 86日目


                                                                                                                                  
       「光陰矢のごとし」

       「時は金なり」

        人は時間を感覚でつかめる何かにマッピングしないと認識できないのかもなぁ(笑)。

       <ひとりごと>



      はじめに

       備忘録として、



       お正月から、ミルトン・エリクソンの論文全集『The Collected Papers Milton H. Erickson』[1] を読んでいる。読み方のルールはここで書いた。

       86日目について書いておきたい。


      催眠による生理機能のコントロール
       「Control of Physiological Functions by Hypnosis(1977)」から。著者はミルトン・エリクソン。

       本稿は、1952年にエリクソンがカリフォルニア大学ロスアンゼルス校で行われたシンポジウムで発表した内容を 1977年に The American Society of Clinical Hypnosisの学会誌に掲載したもの。

       簡単にいうと、「催眠による生理機能のコントロール」、例えば、発汗、心拍、血圧などのコントロールと、「催眠の心理療法への適用」について、2は分けられるけど、オーバーラップしているところも多いよねぇ・・・・という話・・・・

       普通に読んでおけばよいかなぁ〜(笑)。

       余談だけれど、エリクソン派を継承する心理療法家も第二世代、第三世代になっているけれど、アーネスト・ロッシの娘さんがUCLAだったなぁ。

       
      随考
       
       あまり気にはしていなかったが、全集の四分の一が過ぎている。

       今年の四分の一も過ぎたということだ。

       自分の意識では気づいていないが、自分の無意識は何かを学んでいるのだろう。

       エリクソンの爪の垢くらいにはなれたかなぁ(笑)。
       

      3月27日の進捗、686ページまで(全体 2,648ページ、進捗率 25.9%) 

      Volume 2 : HYPNOTIC ALTERATION   OF SENSORY, PERCEPTUAL    AND PSYCHOPHYSIOLOGICAL   PROCESSES

      Control of Physiological Functions by Hypnosis 
      Milton H. Erickson Originally presented at a hypnosis symposium at UCLA Medical School, June 25-27, 1952. Reprinted with permission from The American Journal of Clinical Hypnosis, July 1977, 20, 8-19. 





      (つづく)

      文献
      [1]http://ori-japan.blogspot.jp/2017/01/collected-papers.html


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