2017年5月10日水曜日

ミルトン・エリクソン論文全集を読む 130日目


                                                                                                                            
    文化や風習や人間関係、その他諸々、

 ベイトソン風に観察すると、見えなかったものが見えてきて面白い。

 そこで、エリクソン風に理想を暗示して間接的に介入すると更に面白い(笑)。

   <ひとりごと>




はじめに

 備忘録として、



 お正月から、ミルトン・エリクソンの論文全集『The Collected Papers Milton H. Erickson』[1] を読んでいる。読み方のルールはここで書いた。

 130日目について書いておきたい。

催眠下での無意識の精神活動

 「Unconscious Mental Activity in Hypnosis(1944)」から。著者はミルトン・エリクソンとルイス・ヒル。

     催眠下における無意識の精神活動について述べられている論文だがエリクソンが言いたいことはまず以下の1点に集約されるだろう。


Hypnosis is in fact the induction of a peculiar psychological state which permits subjects to reassociate and reorganize inner psychological complexities in a way suitable to the unique items of their own psychological experiences. 

催眠は、実際には、被験者が自分の心理的経験のユニークな項目に適した方法で、心理的な複雑さを再結結合し、再構成することを可能にする特異な心理的状態の誘導である。


 で事例が2件、最初の事例はエリクソンの病院にインターンとしてやってきた女性。人間関係の悩みなのか少し神経症の様相を呈している。エリクソンのやっている催眠に興味あり。エリクソンは実証実験で被験者になってもらう。実は付き合っている男性との間で性格の不一致など多くの悩みを抱えている。非常に簡単にいうと、ここでエリクソンはこの女性の無意識の葛藤を催眠下で解消するというようなセッションを行っている。結局、この女性は昔話風に、悩みが解決されてこの男性と結婚しました、めでたしめでたし、のような事例となっている。

 このあたりの論文は物語風に書いてあり、具体的なセッションのトランスクリプトは提示されていない。

 もう1件事例があるが、これは明日読む。
 

随考

 エリクソンの技法の特徴とは何か?

 これに答えるのはなかなか難しい。ただし、この答えを見つける作業は、知的にはかなり面白いことでもあり、その技法が仕事や日常生活でも役に立つというオマケまでついている取り組みでもある。もちろん、この技法を通して示唆されるエリクソンの哲学めいたものも含んでいるが、暗に含んでいるだけで、決して押し付けがましくないというのも重要なポイントだ。例えば、「感謝が大事」のようなたわいないことでも、文字に起こして押し付けると、一定割合で「感謝原理主義者」が生まれ、「感謝がない人間はエリクソンの真の弟子ではない」と思考が画一的で硬直する。エリクソンはこんなことを防ぎたかったのだろう。

  背景から説明すると、エリクソンは個々のクライアント毎の思考の枠組み(Frame of reference)や信念システム(Belief System)に大抵は間接的に介入し、行動指示も行った。しかし、何か精神論めいた標語もさることながら、形式知としての体系やフレームワークは不思議なほど何も残していない。もちろん、形式知を残さないというポリシー自体がエリクソンを表しているところもあるだろう。人は本からも学べるが、自身の経験から学ぶのが上善だと。また、経験は文字にした時点でその多くは消えてしまう。要は、楽譜と演奏される音楽は違うし、エリクソンが指向しているのはむしろJAZZのような即興演奏だ。

 「盲人と像」の話ではないが、弟子筋の人たちは、エリクソンを観察して、「これは、おそらくこういうことだろう」と、その体系や哲学めいたものを「忖度」するような構図がある。また弟子によってはその時々の最新のシステム論や流行りの形而上学をくぐらせてエリクソンの技法を形式知化する試みが行われることになる。もちろん、こういう手法はハンバーグみたいなもので、美味しいかもしれないが「この肉はもともと何の肉?」というように源としてのエリクソンを分からなくなる危険と「このレシピを厳守しなければならない」のように画一的で硬直化する危険は常に秘めている。
 
 さて、ここで、いくつか例をあげよう、エリクソニアンのスティーブ・ランクトンはエリクソンの技法の特徴を7つで表現している。ここで書いたが、以下だ。

  1. Non-Pathological Model  病理に基づかないモデル
  2. Indirection 間接的なアプローチ
  3. Utilization ユーティライゼーション 
  4. Action  行動への介入、行動課題
  5. Strategic 戦略的 (現状-理想の認識と差異を埋める行動
  6. Future Oriented 未来志向
  7. Enchantment  時に魔法を彷彿させる

 エリクソニアンとはエリクソンの弟子筋たちの総称だが、ここでは狭義の意味で、エリクソンの暗黙知を暗黙知として学んだ人のことを言う。要は、エリクソンから直接暗黙知を学んだか、直接暗黙知を学んだ人に学んだ人という意味だ。北斗神拳伝承者のようなノリだ。 

 また、エリクソニアンのマイケル・ヤプコが考えると、ここで書いた表になるし、エリクソニアンのスティーブン・ギリガンが考えると、ここで書いた表になる。

    また、エリクソニアンのダン・ショートの第12回のエリクソン国際会議でのプレゼンテーション資料「The Essential Elements of Ericksonian Hypnosis」を読むとエリクソンの技法が以下の切り口でまとめられている

  1. Individualized 個々人別の対応
  2. Inclusive 包括的(清濁併せ呑む)
  3. Permissive 許容的
  4. Indistinct 不明瞭(曖昧さは時には善)


 エリクソンは、意図的に曖昧さを使うところがあるが、これは未来は不確実であり、逆にいうと過去の延長上にある枠組みを越えた未来の可能性について示唆されているようなところが面白いところだ。普通は未来が不確実なことは不安につながるが、不確実なことは自信を持って断言できる、のような視点に立つと、それはそれで曖昧さを資源にすることも可能だということだ。

 また、不確実だということは、このまま座して最悪な未来を迎えるのも自由だが、そうでない最良の未来へ向けて努力するのも自由ということだ。未来は不確実だ、しかし逆にいうと決まっていないし、少しは自分でコントロールできることもある。だから今、最悪だったにしても、その延長にはのらず、最良の未来を実現するためには何ができる?に焦点をあて行動することで未来は変わってくる、あるいはその実現に尽力しようという具合だ。
  
 さて、何れにしても、これらから分かるのは、エリクソニアンと見られている弟子筋でも、ひとによって、どの視点から、どの粒度で何に焦点を当てるのか?で異なる表記になるということだ。一人ひとり、観察の方法も、考え方の枠組みも違うのだから違って当然、ということなのだろう。逆にいうとこの多様性が許容されているのがエリクソンの流れを組む人たちの特徴でもあるのだろう。


 次に、冒頭の「最新のシステム論や流行りの形而上学をくぐらせて」というところに戻ってみる。

 ネットに「Interventive Interviewing Revisited and Expanded」というタイトルのカーステン・ホーンストラップ、カール・トムらの質問システムについての論文があったので読んでみた。系統的には、ミルトン・エリクソン→MRIミラノ派家族療法カール・トムの質問システム→その更新版ということになる。要は、上で説明したハンバークのほうだ。

 要は、ベイトソン(第二次サイバネティクス)や社会構築主義をくぐらせたエリクソン、というような格好になっている質問のシステムだ。もちろん、これを使う注意的はこれが形式知だと認識してフレームワーク原理主義に陥らないということだ。ただし、これに注意して活用すると非常にすぐれものだ。それで、利点と制約を箇条書きにすると以下になるだろう。

《利点》

  • 催眠は必須ではなく、会話と質問で構成されており使いやすい
  • 個人のコーチング、組織のファシリテーションとして使える
  • ファシリテーションの場合は集合知の活用
  • 形式知化されているので一般の人でも学びやすい
  • エリクソンの情報収集、見立て、介入を理解する補助線として使える
  • 人間関係、各種関係性を通した経験を取り扱える
  • よりシステミックな視点で物事を理解できる
  • 間接的な介入で、思考の枠組みの変化、行動の変化を導ける
  • 人類学的な知見が含まれおり、文化や慣習の制約も扱える
  • 自分の過去、現在、未来の経験の質を高めるために使える
《制約、注意点》

  • 形式知、フレームワークであることを意識する
  • できれば、エリクソンの暗黙知技法、ベイトソンの形式知と比較する
  • 実践して上手くいかない時はメタの視点に出て観察しよく考える
  • 困ったらベイトソン的に二重記述、多重記述する
  • 催眠が使いたければ、このフレームワークで見立て介入を考えるとよい

 
 このフレームワークのよいところは、エリクソンの技法を継承しながらも、「催眠」を使わずに、かなり精緻な情報収集、見立て、介入ができるようになっているということだ。個人的には、MRI、ミラノ派、カール・トムの質問システムが理解できて、はじめて、エリクソンがクライアントを催眠状態に誘導しながら何をどのように介入しているのか?かなりの精度で理解できたところがある。逆にいうとクライアントを催眠状態に誘導できたからといって、そこで催眠現象を利用したり、適切な介入ができないと、催眠から覚めた後の認識や行動の変化という意味では、まったく意味がないということだ。

 さらに、これらのフレームワークのよいところは、日常生活や仕事の場面のコミュニケーション、コーチング、ファシリテーション、をはじめ、様々な問題解決に使うことが出来るということだ。当然、問題解決には「変化」が伴うが、コミュニケーションを通じて、自分や相手、あるいは構成員を含む組織の「変化」をベイトソンの視点+エリクソンの技法の形式知で支援できるという優れものだ、と個人的には実感している。個人的な実証として、手法がロジカル・シンキングのようなカクカクしたものから、人類学者のフィールドワークのようにかなり有機的で経験から学ぶような形式になってきているように感じる。

 さて、まとめとして、エリクソンの技法の特徴とは何か?に戻る。この答えは結局よく分からないところがある。ただし、おぼろげながら分かってくることもある。それは以下だ、

  • 個々人は唯一無二でユニークな存在なら、問題も唯一無二
  • 問題の解決には、柔軟性が必要
  • また、多くの視点から観察できるように多様性が必要
  • 問題は、全体論、システム論的に観察、見立て、介入する必要

 このあたりは中々深い話になってくる。

 余談だが、エリクソンの特徴であるプロセス指向の学習ということに目を向けると、結局は、野中郁次郎先生のSECIモデルを回して学習せよ、というような話になってくる。




5月10日の進捗、1028ページまで(全体 2,648ページ、進捗率 38.8%)

Volume III
HYPNOTIC   INVESTIGATION OF   PSYCHODYNAMIC PROCESSES

Unconscious Mental Activity in Hypnosis— Psychoanalytic Implications Milton H. Erickson and Lewis B. Hill Reprinted with permission from The Psychoanalytic Quarterly, January, 1944, Vol XIII, No. 1. Footnotes in this paper are by the editor of The Psychoanalytic Quarterly and were written for the original publication. 





(つづく)

文献
[1]http://ori-japan.blogspot.jp/2017/01/collected-papers.html


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